エレウとテリア-よいこのためのグ〇ム童話案内-
ドアの開く音。H、G、父親が、手をつないで家に入ってくる。双子はつま先立ちで、窓からその様子を眺めている。
「ほんとうなんだよ、お父さん! 天使さまが、ぼくたちを助けてくださったんだ! だってあのお二人のいう通りに進んだら、迷わず家にたどり着けたんだもの。ああ、それなのにぼくは、とても失礼な態度をとってしまった。天使さまはゆるしてくださるだろうか……」
「だいじょうぶよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの分も、わたしがお祈りしておいたから。神様はご覧だったのだわ」
テリア、かかとをおろして尋ねる。
「エレウが言ってた伏線って、あれのこと?」
エレウもかかとをおろして答える。
「そうだよ。Gちゃんのお祈りが神様に届いて、天使たるぼくたちが宝石の道しるべをつくる。このうえなく合理的だ」
「合理的かどうかはともかく、本来の話よりはたしかに納得いくかもね。まあ、それもムダになっちゃったけど」
「うーん、残念だなあ。結局、元の木阿弥だもんなあ……」
「あれ? そういえば、お母さんはどうしたんだい? 兄妹を追いだした、意地悪なお母さんは?」
「行方不明だそうだよ。お父さんといっしょに木を伐りにいって、その途中でいなくなったんだって」
「それは、いつのこと?」
「兄妹が魔女の家にいるあいだ」
「もとの話では、どうなっていたの?」
「『おかみさんは、死んでしまったのでした』とあるよ。死因は不明だけど、とにかく死んだことだけは確実。兄妹が家に帰ったときには、既にお亡くなりだったということだ」
「ふうん……結果的には、邪魔者がいなくなってお宝ももらって家族はハッピー、だからもとの話となにも変わってないよね?」
「そうだね。なんで『行方不明』なんだろうね」
「実はお父さんがこっそり殺していた、とか!」
「状況的には、それはたしかに妥当っぽい。でも思いだしてみなよ。お父さんはお母さんが兄妹を見捨てることを知っていて、それを止められなかったような、意気地なしの育児者失格野郎だぜ? そんな奴が、人を殺すなんて大それたことをするだろうか? それも、兄妹が捨てられたあとで?」
「むむ……わからないよ、どういうこと?」
「やれやれ、テリアはもう少し頭を使わなくちゃな。ぼくたちが落としてきた宝石、あれはどこへ消えたのか? もっと言えば、誰が、どんな風にして拾っていったのか?」
「……?」
「大事なとこをもう一度言おうか? 誰が、どんな風にして、だ」
「…………?」
「まだダメか……いったいなんのために、魔女の釜へ入って、煤だらけになってまでこれを探しだしたと思ってる?」
「……ああ! わかったよ、そういうことだね! ……でもどうして? どうしてGちゃんはそんなことしたんだろう?」
「鈍い奴め」エレウは首を横に振る。「まあ、それはこれからわかるさ」
エレウの台詞に応じるように、家のなかから、Hの声が聞こえてくる。
「そういえば、G。その指輪……」
「これ? 魔女の宝石のなかでも、とびきり大きくてきれいなのを使ったのよ。わたしが拾ったんだもの、わたしのものでいいわよね?」
「いや、いいけど……」
夕食の支度をしている父親のもとへ、Gは駆け寄る。HはGの左手の薬指を見つめて、不思議そうに呟く。
「あれ、お母さんの結婚指輪にそっくりなんだよなあ……」
エレウはいたずらっぽい笑みを浮かべ、テリアは不満げに口を尖らせ、家のなかを覗いている。腰の後ろに回した両手の上には、ふたりにそれぞれひとつずつ、あるものが乗せられている。
頭蓋骨である。大きさの違う、ふたつの頭蓋骨。
幼い天使の羽音のような無邪気さで、少女はささやく。
「お父さん、大きくなったら、わたしと結婚してね」
作品名:エレウとテリア-よいこのためのグ〇ム童話案内- 作家名:遠野葯