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エレウとテリア-よいこのためのグ〇ム童話案内-

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開幕 どこでもない場所

「こんにちは」
「こんばんは」
「ぼくはエレウ」
「ぼくはテリア」
「ぼくらは双子、二人だけ」
「エレウが兄でテリアが弟」
「まあ、そんな分類にあまり意味はないんだけど」
「まあ、どっちがどっちでも正味同じなんだけど」
「だってもともとぼくたちはひとつだから」
「だってそもそもぼくたちはひとつだから」
 双子、手を合わせる。離す。
「いまのは閑話休題のしるし」
「あるいは場面転換のしるし」
「この場所について説明しよう」
「この場所について解説しよう」
「……おい。オワム返しはやめないかテリア。お客さんの目が冷たい」
「へ? オ『ワ』ム返しってなに、エレウ? オ『ウ』ム返しじゃないの?」
「ちょっとだけ変えて繰り返すからオワム返しだ」
「へえ」
「ちなみにやられる側としてはオウム返しの数倍いらつく」
「そうなんだ。知らなかったよエレウ、ごめんなさい」
「わかればいいんだ」
「かわればいいんだ」
「おい」
「かわればいい。ぼくがお兄ちゃんになれば、命令するのはぼくのほう、服従するのはエレウのほう。でしょ?」
「それなら今度は、ぼくがオワム返しをするわけか」
「さすれば次回は、きみがオワム返しをするわけだ」
「おい。本気でおこるぞ。グーでなぐるぞ」
「ごめんなさい」
「で、なんの話だったかな」
「この場所について」
「ああそうだ。といっても言うべきことはあまりない」
「ひとことでことたりるものね」
「そう、ひとことでことたりる」
「「ここはどこでもない場所だ」」
「ぼくたちはここで待機している」
「ぼくたちはここで準備している」
「どこかへ行くための待機だ」
「なにかをするための準備だ」
「どこへ行くかは気分次第」
「なにをするのも自分次第」
「どこへでも行ける」
「なんだってできる」
「目的はないけれど」
「達成はないけれど」
「それゆえにぼくたちはどこまでも自由だ」
「だからこそぼくたちはかぎりなく自由だ」
「それじゃ行こうかテリア」
「なにをしようか、エレウ」
 双子、手を合わせる。跳ぶ。



















第一幕 HくんとGちゃん

「やあやあみなさんこんばんは」
「双子のエレウとテリアだよ。あ、ちなみにぼくがテリア」
「どっちがどっちでもいいんだけどね」
「ねえねえエレウ」
「どうしたテリア」
「今日は初めてのお客さんが多いようだね」
「そうだね。たぶんこの劇がどういうものかを知らない人も多いだろう」
「ということは、それなりの配慮が必要だよね」
「そういうことだね。もちろん、ぼくはあらかじめそこんとこを考えていたぜ」
「さっすがエレウ! なるほど、それでここなんだね」
「そう。誰もが知ってる有名な童話。いくら気分次第とはいえ、お客さんへの心配りを忘れちゃ商売上がったりだからね。しばらくは童話くくりでお送りしようという魂胆だよ」
「『よいこのための〜』って副題はそういうことだったんだね」
「そのとおり。まあ、ぼくたちがやる時点で『案内』にはならないだろうけどね」
「たぶん『凌辱』くらいだよね」
「せめて『改竄』とかにしとけ」
「はいっす。りょうかいっす。エレウはやりたい放題に見えて、そういうとこはきっちりしてるよね。そこにシビれる! あこがれるゥ!」
「おいおい。本編を読んでもいないのにネタだけ使うってのは都合がよすぎるぜ。ファンの方から白い目で見られるだろうが。おあややおやにおやや……こほん、おあやまりなさい」
「すいませんでした。脚本の人が軽率で。エレウの滑舌も軽率で」
「おい」
「冗談だよ!」
「……ちなみにぼくたちアドリブなんだけどね」
「そういうことになってます!」
「さて、なんだか危うくなってきたので、話を戻そうか。いまぼくたちがいるのは、その童話のなか」
「タイトルは物語の主人公である兄妹の名前なんだけど、ここでは仮名にしてあるよ」
「個人情報の保護は大切だからね」
「さっすがエレウ!」
「といってもあらすじを語ればピンとくるだろうから、うわべだけの『保護』なんだけど、情報化社会ではその『うわべ』がなにより大事だったりするんだよね」
「と見た目十歳のショタガキが申しております」
「…………」
エレウ、テリアをにらむ。
「冗談だってば。怒ってないで、あらすじあらすじ」
「まったく。ある大きな森の入り口に、四人家族が住んでいました。きこりのお父さん、お母さんに、二人の兄妹。この兄妹が主人公。兄をHくん、妹をGちゃんとするよ」
「じいちゃんだって。あはは、おかしいね、妹なのにGちゃん」
「そんなにおもしろくないし、ぼくたちこの名前で日本人だとおかしいだろ」
「日本人じゃないけど日本語はわかるって設定でどうかな?」
「なるほど、それはアリだな。時代を反映している。ぼくらはグローバリゼーションの申し子というわけだ」
「またそうやって関係ないムツカシイ話をする。いいからあらすじ!」
「つっこんできたのはそっちだろ……。えっと、HくんとGちゃんの家族は、残念なことにひどく貧乏でした。引用元には『日々のパンすら手にはいらなくなってしまいました』とあるね」
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない!」
「言い得て妙だ。続きを語ろう。あまりにも貧乏なので、お母さんは兄妹を森の奥へつれていって、置き去りにしてしまいました。口減らしだね。もっとも兄妹は両親がこのことで言い争っているのを盗み聞きしていたので、お母さんにもらったパンをちぎっては道に落とし、それをたどって家に帰れるようにしていました。けれども、いざ帰ろうという段になると、どこを探してもパンが見あたりません。鳥が食べてしまったのです。しかたなく、道をさがして歩いていると、兄妹は一軒の家を見つけました。その家はお菓子でできていました。歩き通しで腹ペコだった兄妹は、家を食べはじめます。食べていると、なかからおばあさんがでてきて、兄妹を食卓に招き、ごちそうを食べさせてくれました。さらにベッドまで貸してくれて、兄妹は幸せな気持ちでぐっすり眠りにつきました。ところがこのおばあさんというのは悪い魔女で、お菓子の家で子どもたちをおびきよせては食べてしまうのでした。魔女は寝ているHくんを家畜小屋へ放りこんで閉じこめ、たっぷり太らせてから食べてやろうとたくらみます。
いまはちょうどこの場面で、ぼくたちはお菓子の家のそばの草むらに隠れているよ。時間は……何時だろう、とにかく深夜。さてテリア、なにか質問はあるかい?」
「言い争っていた、ということは、お父さんもお母さんのたくらみを知っていたんだよね? 共犯なの?」
「まあ、そういうことになるかな。しかしお父さんの方は、お母さんのやり方には反対だったんだ。気が弱いから、押し切られてしまったけどね」
「カカア天下だねえ」
「だねえ。ほかに質問は?」
「Gちゃんはなにをしているの?」
「それは見た方が早いかな。ほら」
 エレウ、指さす。
 向こうから、女の子が桶をかかえて一生懸命歩いてくる。
「あれがGちゃんか。おとなしそうな子だね。やまとなでしこって感じだ」
「だからそういうこと言うなって。そもそも西洋人だし」
「シー・アピアズ・ア……ア……ヤマトナデシコ」