コスモス
何が?
あの時、私はそう訊かなかった。
あれは、彼の遺書だったのだろうか…
私は飛び降りなかった。そのまま非常階段を降り、あの窓を開けて外へ出た。橙色に染まった夕焼け空が、広がっていた。外に出ようとして、誰かが供え物をしていることに気付いて身を潜めた。
囲いと囲いの間から、外をうかがう。そこにいたのは、可菜子だった。
キレイに咲いたコスモスの花を一輪、左手に握って。
そこに置いてあった、枯れかけのコスモスの花の隣に、左手に握っていたキレイに咲いたそれを置いた。
たぶん、今タカやんの目に、このコスモスだけは色鮮やかだろう。