初恋とは
「でもそれって、私たちが女だからじゃないかな。ほら、女って、切り替えが早いでしょ。男は引きずるものじゃないかな。特にあの子は、わざわざあんたに、チョコをくれって言ってきたのよ? あんな小学生が、そんなこと出来る? しかもただ欲しいんじゃなくて、あんたからのチョコが欲しかったのよ」
いや、それは多分ついこのあいだ、私が慎吾くんにアドバイスしたからだと思うけど。
でも改めて言われると何だが急に意識して、照れてしまう。あの子は確かに一途な想いを私に抱き、それを真っ直ぐにぶつけてきた。なのに私はそれをかわしてしまい、あまつさえ本気にしていないという事実は、否めない。
「チョコ、あげない方がいいのかな」
何だか、軽々しくあげるようなものじゃないような気がしてきて、言葉が弱弱しくなる。しかし、
「そりゃ、あげた方がいいんじゃない?」
とあっさり返され、私は思わずずっこけそうになった。
「何なのそれ。さっきまでの議論は何だったの!」
「いやだって、そっちの方が面白いじゃん。別にあげるなとは言ってないよ。ただ、あの子にとっては大事なもんだってこと、ちゃんと意識してあげればいいんじゃない?」
言葉につまった私に、ふあ、と理沙はあくびを一つ。
「腹へったあ。今日の夕飯、すき焼きなんだよね。あ、明日のチョコ、余ったらちょうだい。気になる先輩にチョコあげるから。義理チョコです?って」
あんたもあげるんかい!一日遅れで、しかも人のチョコで!
呆れたが、そもそも真面目に理沙の話を聞いたことが間違いだったのだ。
はあ、と溜息をついた私は、さてこれからどうするかと思考を回転させる。
チョコを買うのなら、今からスーパーに行かなくてはいけない。ただ問題は、それが市販のものか手作りのものにするか。
それでまた違うんだろうか。
――もし手作りチョコをあげたら、慎吾くんは五年たっても、私を好きでいてくれるのかな。
そんなことをちょっと本気で考え始め、それも悪くないかもなあとぼんやり考えてしまった。そんな自分に、驚きだった。
しかしそれは思考が完全に理沙に感化されていることであり、私は溜め息とも吐息ともつかない息を吐いた。