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ある機織りの心情

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ユラのきもち



 あの事件からもう少しで半年になる。
 村は夏を迎え、多くの雨が振り、日差しも強い。若者は寝床から這い出ると、かまどに火を入れる。
 その若者は、村の隅に所在する草庵でいつものように遅い朝を迎えていた。若者は夜遅くまで作業をしてしまうという悪癖があり、よく朝が遅くなるのだ。
 今日も若者の起床は遅くなった。理由は言うまでもないだろう。
 さて、ここ数カ月で村の状況も様変わりした。色々な人が他方に旅立ち、そして新しい人が入ってくる。しかし、それ以外にも多くのことが変わったのだった。
 まずは、丘の上に住む人々が所属していたギルドが解体と相成った。というのも、この村の人間と当ギルドとの軋轢が行き着く所にまで行ってしまったが故であった。その活動自体に若者は関わっていなかったが、活動家たちの後始末を請け負っていた。自分から請け負ったようなものなのだったが、存外に疲れるモノではあった。その後始末も粗方終わったが、それでも頭の痛い問題は数多くあった。
 と言っても、若者が責任を負うことでもなし、そこまでする理由はないのだ。それでも首を突っ込んでしまう辺り、若者の人間性が現れている。その行動の為に、若者には少なからず敵を作っているんだろうな、という自覚があった。
 ――若者の名前は、ユラという。
 一年ほど前に一念発起してこの村に移ってきた元移民であり、ここ最近は活動の場も広がってきた機織り職人志望の若者であるのだ。
 ユラは最近の村の様子が少し息苦しくを感じるのであった。
 ギルド本部の移動の決まった丘の上の『オヤカタサマ』のこともそうであれば、移民の村特有の問題でもあるおかしな移民問題。裸の王様事件以来、なりを潜めていたその問題は、また首をもたげていた。
 そして、ここ最近増えているのは、村の問題を作品にする作家の存在。
 これは、多分に自分の責任があるのだろうと思う。タペストリーという形で村の問題を描いた自分。それからこの村にはそういった趣旨の作品が増えてきたのだ。
 そのことを問題視する人もいる。それなのに、ユラには何一つお咎めがない。そのことがユラにとってはとても心が重くなる要因でもあった。
 自分が批判非難を受けない理由と、他の人が批判非難を受ける理由。その違いが分からない。究極的にはやってることは同じなのだ。
 そしてこうも思う。みんな自分勝手すぎる。自分のことばかり考えて、他の人のことを思いやらない。多分、この村の問題の根っこにはその自分勝手な行動があるのだ。
 この村には人の注目を浴びた作品がランク付けされ品評会で紹介される制度がある。そのシステムを利用して品評会の上位に居座る『自分勝手』な人間がいた。
 そして同時に、自分が上位にいけないからとそれら上位の人間を攻撃する『自分勝手』な人間もいる。
 本当に、自分勝手すぎる。ユラは義憤に駆られるのである。
 しかしそれは同時に偽善であるともユラは理解している。それ故に、ここ最近は口を噤んで自体の収拾に努めていた。
 だが、それも限界であった。
 何故か。それは、ある活動家に対する移民の攻撃が原因であった。
 その人はこの村の衰退を危惧して行動を起こした。その移民は、その行動が気に入らなかった。その対立の末に、その人はその活動を辞めてしまった。その活動を、ユラは楽しみにしていたため、活動を辞めてしまったという話を聞いて、寂しさを感じてしまう。
 本当に気が重い。なんでみんな仲良くできないのか。何故前向きに考えられないのか。
 上位にあがれないは自分の実力が故だってみんな何故思えないのか。
 ユラにとって、そのランキングは山であった。その村の人間は少なからず『その山を切り崩すべし』と考えている。しかし、ユラは『越え甲斐のある山』だと考えた。その意識の違い。評価されたいという虚栄心と、自身の実力の向上に対する向上心の違い。無論その考えだけが正しいというわけではない。そのことはユラも理解していた。だが、少しだけ、ほんの少しだけそう考えられることができれば。ユラはそう思った。
 事件は終わっていない。問題はあの事件から何一つ終わらず変わらずに続いている。
 そのことは、今もなお伸び続けるタペストリーへの訪問が何よりも物語っている。
 ユラの考えていることは一つの意見でしかない。確かに、あの順位には流動性が必要だ。何事も流動しなければ淀み腐る。だがそれは、他人を攻撃することで得ていいモノであるのか?
 ――事件は終わっていない。あの時から、何一つ変わっていない。それは、この村が、ということではない。この村に住む人間が何一つ変わっていないのだ。
 だから、ユラは変わりたいと思う。また一つ、人間として職人として成長したい。その考えのもと、ユラはまたこの村での生活を始めるのだ。
 まずは朝食から。ご飯を食べて、気分を入れ替えよう。
 そして、ユラはまた機織りを続けるのであった。

作品名:ある機織りの心情 作家名:最中の中