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藍の夜空に

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あの日、あなたと見上げる藍色の夜空に、打ち上げられる花火の赤や青や黄色や紫。その色とりどりの映像が、今も脳裏にくっきりと刻まれているのに……。

大勢の観客に混ざって、砂地に敷いたシートに座り込んで眺めたよね。覚えてるかな?
「わあ! 綺麗だー」「素敵だね!」なんて歓声も上げながら。

あの時約束したよね。
来年も、そのまた来年も、ずっとずっと来年も、こうして一緒に花火を見ようって。

ドドーン!!

ほら、花火の打ち上げが始まったよ。

たこ焼きを1パック買って、二人で半分こして食べた時、たこ焼きがコロッと脱走して、私が着ていた白地に黄色い向日葵模様の浴衣の上にポロッと落ちたでしょう?
あの時、慌てて取り出した藍色のハンカチで、あなたはゴシゴシ擦って拭いてくれたよね。
そしたら却ってシミがくっきり着いちゃって、あなたはゴメンゴメンと頭を掻きながら謝ったよね。落とした私が悪いのに。

仕方ないからその後クリーニングに出したら、ラッキーなことにすっかり綺麗になった。だから今年も着てきたの。見えてるかな?
「この浴衣、君にとっても似合ってる」って言ってくれたよね。
「そうぉ? もっと大人っぽいのが着たかったのに、お母さんがこんなの買ってきてくれて」
私が照れてそう答えたら、
「向日葵のように、周囲の人に明るく微笑む君が好きだから。だから君にはぴったりだと思うよ!」
そう言って優しい笑顔を向けてくれたよね。

ドドーン!!

ほらまた、今度はハート型の花火だよ。
去年同じのを見た時、
「あのハートとぼく達のハート、どっちが大きいと思う?」
そう聞くあなたに、私はふふふと笑っただけ。そしたらあなたは、
「絶対ぼく達のハートの方がでっかいぞ!」
そう言って力瘤を見せて笑ったね。
時々子供のように、そしていたずらっ子のように微笑むあなたが好き。
そして時には、ずっと年上の人のように優しく言葉をかけてくれるあなたが好きだった。
たった一つしか違わないのに。
だから私はいつだって、そんなあなたの大きな愛に包まれて幸せだった。
でもそのことを伝えないまま……。

ドドーン!!

ほら見て!
今度は大きな枝垂れ柳だよ。
色に派手さはないけれど、このシンプルだけど、雄大な感じが好き。
そう、派手じゃなくてもシンプルな、素直で正直な愛が好き。

本当は、もうあなたのことは忘れなくちゃいけないのかも。
でも、もうしばらく――もう数年くらいはいいよね? あなたとの思い出に浸っても。
だって、今年はあなたの新盆なんだもの。
あの日、突然逝ってしまったあなた。私には何も言わないで。
私がいくら泣いても戻ってはくれなかった。
言おうと思ってたことがあったのに、言えないままで……。
だから今言うね。ちゃんと聞いて。
「あなたと付き合えて幸せだった。あなたに愛されて幸せだった。あなたが好きだった。とっても!! そしてあなたに愛される自分が誇りだった」
堰を切ったように頬に熱いものが伝わる。
「――だからもう少し、あなたを好きでいさせてね。空の上から今も、私に微笑を投げかけてくれてると信じてるから」

ドドーン!!

今年最後の花火が上がったよ。
でも来年も、そのまた来年も、きっとこの浴衣を着て花火を観に来るから。
きっと来るから、ひとりでも――。

    ――お盆に思いを馳せて――

作品名:藍の夜空に 作家名:ゆうか♪