魔法使いの弟子ピンキー
魔法使いの弟子 ピンキー
作 檀上香代子
一場 道化
幕前 ノッポのピエロ登場
ノッポ (客席に気付いて、下手奥に)おーい、チビ始まるぞう。
〔反応なし〕なに、やってるんだろう、のろま。チビー、
のろすけチービー。
チ ビ (ずり落ちたつりバンドを掛けながら、慌てて出てくる。)
はーい、はい、はい、お待たせえ。
ノッポ なにが、おまたせだ! お客様に失礼だろう。さあ、皆さん
にご挨拶だ。(正面向く)
チ ビ ご挨拶だ。
ノッポ 今日はよくいらしゃいました。
チ ビ 今日はよくいらしゃいました。
ノッポ、上手に向かい、チビ、下手に向かい、同時におじぎする。
お尻がぶつかり、よろめく二人。ノッポ、怒る。チビ、それに気がつか
ない。ノッポ、立ち直り
ノッポ これから始まるお話は。
チ ビ これから始まるお話は。
ノッポ 魔法使いの弟子に
チ ビ 魔法使いの弟子に
ノッポ 魔法使いの弟子になった子供のお話です。
チ ビ 魔法使いの
ノッポ (チビに)人の真似をするなよ。
チ ビ 人の真似をするなよ。
ノッポ おれが、お前に言っているんだ。
チ ビ おれが、お前に(ノッポにド突かれる。よろけて)なにするんだ。
ノッポ なにするんじゃない。おまえなあ、(客のことを思い出す)
これは、大変お見苦しいところを、おみせしてーーー。
チ ビ これは、お見苦しい〔ノッポ、チビの足をふんずけようとして、
失敗。その足にチビの足が乗る。〕
ノッポ 痛ッ!
チビおどろいて、平謝り、謝るチビにしつこさに
ノッポ もういい。改めてお客様。どうぞ、ごゆっくりお楽しみください。
チ ビ お楽しみください。
二人、客席に向かっておじぎ。ノッポな下手へ、チビは上手へ走り去ろ
うとして、正面衝突。あたふたと引っ込む二人。ゆっくり幕があく。
(案――一旦引っ込んだチビが、あたふた登場して、引き幕をあける。)
二場 森の道
紗幕前 上手から小鹿A が走り出てくる。
小鹿A おーい、皆いるかい。
客席から小鹿数匹
小鹿B いるよ。
小鹿C いるよ。
小鹿D どうしたの?
小鹿A こっち、こっち。(手招く)
小鹿Aの周りにあつまる小鹿。
小鹿A あのさ、知ってるかい、僕みちゃった。
小鹿B なーに、何見たんだよ。
小鹿たち、興味しんしんで小鹿Aを見る。
小鹿A あのさ、(皆をみまわして)うーん、どうしょうかな。
小鹿C なんだよ。話したくて、僕達を呼んだくせに。
小鹿A うーん。
小鹿D 出し惜しみするなんて、ずるいわ。
小鹿CB そうだ、そうだ、ずるい。
小鹿A (おもむろに)あの、この森の奥の洞窟に、住んでいる魔法使い
の先生。
小鹿C そんなこと知ってるよ。
小鹿A 魔法使いの先生のことは、知ってるさ。みんなは。
小鹿D 皆を助けてくれるおいしゃさんだもの。
小鹿A そうじゃなくてさ、あのっ先生の家に、人間の男の子がいるんだ、
僕見ちゃったもん。
小鹿C 人間なんて、なんで。
小鹿D 人形と間違えたんじゃないの。
小鹿C そうだよ。きっと。あの先生のなくなった女の子の代わりに、
女の子の人形があるから。
小鹿B あの人形 ちょうかわいいもん。
小鹿A 違う、見間違いじゃないよ。 そうだ。お客さんと一緒に覗いて
みようよ。(客席に)ねえ。
小鹿BCD そうだね、それがいい。
小鹿A じゃ、みんなで。
小鹿たち レッッゴウ!(退場。)
紗幕がゆっくりあがる。
三場 魔法使いの部屋
上手に机と椅子、本箱、本飾り物は魔法使いらしい雰囲気のある物。
椅子に座って調べ物をしている魔法使い。 下手に机、大きな時計
飾り物、小さな椅子に子供の人形。部屋全体は洞窟を思わせる雰囲気。
魔法使い ピンキー、これピンキー。
ピンキー はーい、(下手奥より)お呼びですか?
魔法使い 今、何をしている?
ピンキー あのー、食事の後片付けで、------でも、今終りました。
(期待して)なにか?
魔法使い そうか。では、ここの掃除を、------いいか、丁寧にな。
ピンキー (少々不満気に)はあーい。
魔法使い 返事はのばさなくて良い。
ピンキー は、はい。これが終ったら、魔法の勉強ですね。
魔法使い いや、今日はこれから魔法会議に出席しなくてはならない。
(仕度を始める。)
ピンキー え! いつになったら魔法------‐‐‐。
魔法使い わしの仕事が終ってからだ。じゃあ、出かけるぞ。
(出口のほうに向かう)仕事はちゃんと丁寧にするんだぞ。
ピンキー (馬鹿丁寧に、深々とおじぎする)行ってらっしゃいまーせ。
不満そうに掃除を始める。
ピンキー ああ,イヤだ,イヤだ。毎日毎日、皿洗いや掃除ばっかり‐‐‐
(唄う)毎日、毎日 掃除や皿洗い、これじゃ掃除夫。いやになっ
ちゃうよ。(出口のほうへ向かい)おいらは、掃除夫になりたく
てきたんじゃないんだぞ!。魔法を教わりに来た魔法使いの弟子
だぞ! ああ、いつになったら、魔法が使えるようになるのかなあ。
(椅子に座る)客席に気づくピンキー。
ピンキー ヤア!みんな。不思議そうな顔をしてるね。あっ、そうか。
おいらのことかな。おいらの名前はピンキー。魔法使いになりたくて、
ここの先生に弟子入りしたんだ。一週間になるのに、まだ、何にも
教えてもらってないんだ。いや、違った。魔法の文字の読み方を教わ
ったかな。(椅子に座る)あれ、何だろう。魔法の本だ。
チャ,ム、チャ、ム、ラン、ラン、チャム、チャム、リン、リン、
バ、ハ、ハーイ。(人形、めざめる。)チャムチャム、ランラン、
チャムチャム、リンリン ヤ、ホ、ホーイ(歩きながら読む、
人形立つ)チャムチャムランラン、チャムチャムリンリン、バハ
ハーイ。(ふしをつけて)チャムチャムランラン、チャムチャム
リンリン、ャホホーイ。
歩き始める人形、呪文と音にあわせて踊る人形 ピンキー人形に気づく。
ピンキー 魔法の言葉だ!
人形と楽しく踊るピンキー。踊り終わり、人形を元の位置に座らせる。
人形抵抗する。やっとすわらせ、掃除にかかると、ピンキーについて
歩く人形。
ピンキー そうだ! こいつにやらそう、掃除。〔箒を取りに行き。〕
作品名:魔法使いの弟子ピンキー 作家名:檀上 香代子