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妻と観る花火

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腹に響く打ち上げのズンッ!という音、すぐに上空で花火の花が広がるばばばばっという音。見上げる視界いっぱいに広がる動きのある色たち。わき上がる歓声!

    ◇       ◇       ◇

花火はできるだけ打ち上げ場所に近い方が迫力があっていいね。と、妻と意見が合って、まだ日差しのあるうちから会場に向かった。国営昭和記念公園の目の前にある西立川駅はもう大混雑だ。駅と公園 を繋ぐ広い通路には待ち合わせの人たちでいっぱいだった。

帰りの混雑を考えてのことだろう、打ち上げ場所から離れている園に入ってすぐの池の周りにもすでに席を確保している人たちがいる。それを横目に、樹々の緑の中を同じ目的の人たちに混じって歩いた。太陽はもうかなり西に傾いているのだろう。樹の下は夕方を感じさせる。私は今日何度目かの同じセリフ「大丈夫?」を言う。
「大丈夫」少し息の弾んだ声で妻が応える。

みんなの原っぱという名の芝生の広場にはもうかなりの人々はで埋まっていた。それでも近寄って行くと、二人分のレジャーシートを敷く場所はあちこちにあった。周りの樹々と恐らくあの辺が打ち上げ場所だろうという予測のもとに場所を確保した。

もう何年もそうしているのだが、妻がお握りとビールのつまみを造り持ってくる。会場には色々な屋台があり買うことができるのだが、行列になっている。私はやはり家から保冷ケースに入れて持参したビールを取り出す。徐々に暗くなって行く中で飲むビールは、盛り上がりつつある花火への期待と妻の手造り料理で幸福を感じる。ほぼ食べ、飲み終える頃、この幸せな時間をあと何回迎えることが出来るのだろうという思いにかられた。この思いに踏み込んではいけないと思った時に、アナウンスが始まった。カウントダウンだ。

ご……よん……さん……に……いち……

ばばっばばばばばばばずんッぱぱぱぱぱらぱぱら
いっせいにいくつもの花火が打ち上がり いくつもの光の花が咲いて消えて行く。

「すごい、ほら! わああ!」
声を上げる妻の横顔が点滅する。

    ◇       ◇       ◇

「帰るのが大変だから今年はこのあたりにするか?」
公園に入ってすぐの所にある池の一部を指して、私は妻の顔を見た。
「そうだね、そうしようか」
案外素直にそう言った妻の顔をちょっと悲しい思いで見て、すぐにレジャーシートを取り出して敷いた。いつもの年より遅い時間になっていた。すでに周りは暗くなりつつあった。
何度もそうしたように、持参のビールを飲み、料理を食べた。

ドーン  ぱぱぱぱ。もう花火はあがっいて、僅かながら遅れて音が聞こえて来る。
上空で火薬の弾ける音が小さい。
「おおーっ!」
無理に盛り上げるように声を出した。
「奇麗だねぇ」

「ああ、木がじゃまだなあ」
「下のほうが見えないね」

「ほら、でも大きいのはあまり変わらないよ。いいなあ」
「うん」


    ◇       ◇       ◇

妻と観た最後の花火は、やはり不本意さが残った。あの後、もう何年も花火大会には行ってない。

今年、私はふと、もう大丈夫な気がすると思った。私は妻の写真をシャツの胸ポケットに入れて、昭和記念公園に向かっていた。まだ明るさが残っている中を原っぱめがけて歩いた、もちろん保冷ケースに入れたビールを持って。


作品名:妻と観る花火 作家名:伊達梁川