われてもすえに…
「え?何するの?」
「……小太郎ちゃん、お姉さんが剃ってあげましょうねぇ」
剃刀を片手に、不気味な笑いを含んだ姉が迫ってきていた。
「痛いのイヤ!」
小太郎はついこの間の元服式を思い起こした。
前髪を剃り落とされたとき、痛かった。
あんな思いしたくない!
とっさに逃げようとしたが、母親に腕をつかまれ、元の位置に座らせられ、姉に脅された。
「やらせなさい!練習させて頂戴」
「なんの練習だよ!?イヤだ!痛いのイヤだ!」
必死に太郎はもがいた。
「力が強いわね。やっぱり男の子だわ」
「痛くないから!ね?」
母と姉は諦めず、髭剃りを強行しようと奮闘した。
「誰か、助けて!」
「小太郎、剃らないとみっともないわよ。……今よ!」
結局、非情な姉と母に練習台にされてしまった。
「できた!」
「もうちょっと力抜かないとダメよ。血が出るわ」
「……はい」
小太郎は必死に二人の魔の手から抜け出し、泣きごとを言っていた。
「痛いよ……。ヒリヒリする……。姉上のウソつき!」
しかし、姉は平然として彼に告げた。
「また明日お願いね」
「え?明日も!?」
明日も同じ痛みを我慢しないといけないのかと思うと、自分をこの姿に変えた神様を恨みたくなった。
「当たり前でしょ?男の人は毎日やるの!」
しかし、母が小太郎にとってうれしいことを言ってくれた。
「この子毎日はやらなくていいわ。濃くなったら困るでしょ。男前が台無しよ」
絢女は素直にその言葉を受け、引きさがった。
「じゃあ、また生えたらお願いね。小太郎ちゃん」
「ちゃんっていうな!絢女!」
「姉上に向ってそんな口きかないの!」
朝っぱらから口論を始めた姉弟をすぐさま初音は仲裁した。
「さぁ、ケンカしないで、早くご飯食べて買い物行くわよ!」