小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

われてもすえに…

INDEX|52ページ/97ページ|

次のページ前のページ
 

「するもんか! お前を倒すまでは止めない!」

 そう言った小太郎は男の一瞬の隙を見つけ、思い切って刀を振り下ろした。
しかし、妙な音がしたと思い、確認すると刀の刃が折れていた。
 長時間にわたる乱闘の末、刀の刃はボロボロになっていた。
 使い物にならなくなった武器を手に立ちつくしていると、男はニヤリとして言った。

「刀が折れたな。さぁ諦めようか?」

 そんな男に、小太郎もニヤッとして油断させた。
すぐに刀を捨て、身構えた。

「……いいや。素手がある!」

「なに!?」

 苦手な柔術だったが、政信と喜一朗との生活で鍛えに鍛えた。
刀しか興味がないと見える男は、突然掴みかかってきた小太郎に驚き、うろたえた。
 そんな男の胸倉をつかみ、残った力で背負い投げした。
通り魔は宙を飛び、屋敷の塀にぶち当たった。
 反撃を待ったが、男は戦意をそがれた様子でそのまま動かなかった。

「俺の、勝ちだな……」

 気が抜けた小太郎はその場で座り込んだ。
とたん、屋敷の中から下男が数人走り出てきた。

「良鷹様! 御無事か!?」

「若、仕留めましたか!?」

 彼らに精一杯の笑顔でこう返した。

「……まだ生きてる。縛って役人に突き出してくれないか?」

「はい。早速」

 下男たちは力を合わせ、通り魔をぐるぐる巻きにし猿轡を咬ませ、脅しながら引っ立てて行った。

 すべてが終わり、瀬川家に静寂が戻った。

 そこへ下女に守られ、母と姉が出てきた。
小太郎はすぐに母の安否を確かめた。

「……母上、大丈夫でしたか?」

「小太郎、よくやったわね」

「いえ……」

 その後ろに、絢女が立っているのが小太郎には分った。
良い機会だと感じた初音は、娘を急かした。

「ほら、絢女何してるの?」

 小太郎は少しばかり期待を持って目線をやったが、彼女は逸らした。
それを見るや否や、小太郎はうなだれ、すぐさま逃げるように部屋へと戻った。
 絢女は、はっとして声をかけた。

「……待って」

 そのまま彼を追いかけようとしたが、彼女はある物に気が付いた。
廊下にポツポツと落ちている物……。
 絢女はすぐに母を呼んだ。

「母上! 大変です。これを!」

「なに? あっ」

 それは血だった。

「絢女、応急手当てしなさい。今すぐお医者様をそっちに向かわせるわ」

「はい」

 急いで年配の下女とともに血の跡をたどると、小太郎の部屋で途切れていた。
中にいるに違いない。

「小太郎! 大丈夫!?」

 襖に手をかけたとたん、怒鳴り声が聞こえた。

「入るな!!!」
 
 その声に驚いた絢女は、手を離した。
そんな彼女をよそに、肝が据わっている年配の下女は部屋の中に突入した。

「若? どこです? 傷の手当てをします。こちらに……」

「なら、姉……いや、絢女さんには出ていってもらって。でないと……」

 下女が説得しようとしたのを制し、絢女自ら小太郎に命じた。

「何言ってるの! 隠れてないで早く出て来なさい!」

「イヤです!」

 その小太郎は、身を隠し、箪笥の陰に隠れていた。
そっぽを向く弟に絢女は言った。

「……早く、傷を見せなさい」

「イヤです」

「血が出てるのに何言ってるの!? 早く脱ぎなさい!」

「……では、あっち向いていて下さい」

「何言ってるの!?」

 すると、小太郎も声を荒げた。

「私の裸見るのは嫌でしょう!? 絶対に脱ぎません!」

「黙りなさい! 力づくでもやるわ。手伝って」

「はい」

 絢女は下女とともに弟の衣を剥ぎとったが、驚いて手を止めた。
身体のあちこちが傷付き、血が滲み出ていた。
中でも左の二の腕からの出血は多く、そこから流れる血で畳に小さな血だまりができていた。
 
 しかし、そんな傷よりも驚いたのは、弟の肉体だった。
以前見た時より鍛えられ、男そのものだった。
 記憶の中の幼い弟とは似ても似つかない若い男。
 怖くなり、そのまま動きを止めていたところを下女に気付かれた。
 
「……お嬢さま、障りがあるなら後はわたしがやりますので。お部屋でお休みください」
 
 しかし、彼女の進言を受け入れはしなかった。

「いいえ。やります。……小太郎、直ぐにお医者さま来るからね」
 
 
 すぐに医者が到着し、小太郎の傷を診察した。
二の腕の傷はそこまでひどくはなかったが、傷口を縫うことになった。
 歯を食いしばる弟に、絢女は見入った。以前の小太郎ならば、『痛い!』と泣き叫んだに違いない。
しかし、今目の前にいる弟は弱音を一切吐かず、耐えていた。
 しばらく見ない間に、本当に大人になてしまったのかと少々不安に駆られた。
そんな事をしているうちに、治療は無事終わった。

 姉弟二人だけになった部屋で、絢女は以前のように小太郎に話しかけた。

「……畳汚れちゃったわね。ここで今晩寝れないでしょう? どうする?」

 しかし、小太郎は彼女の顔を見なかった。

「ありがとうございました……」

 そう言うと、部屋の外へと歩き出した。
驚いた絢女は、追いかけようと同じように立ち上がった。

「ちょっと、どこ行くの?」

 小太郎は襖を姉の眼と鼻の先でピシャリと締め、小さく言った。

「絢女さんの眼に入らない所へ……。失礼します」

 
 一人残された絢女は、茫然と暗い部屋で立ち尽くした。
 
作品名:われてもすえに… 作家名:喜世