われてもすえに…
興味津々で喜一朗に突っ込んだ。
「喜一朗殿、好きな人いるの!?」
「そうだ、良鷹。すごいよな」
喜一朗ははっと我に返り、反論し始めた。
「……一体何をおっしゃっているので?」
誰がどう見てもうろたえている喜一朗に政信ははっきり大きな声でこう言った。
「しらばっくれるなよ。相手が居て結婚決まってんだろ?……相手がどうしてもわからなかったがな」
喜一朗は下手な作り笑いで話をはぐらかそうとしていた。
「……ハハハ。殿、一体そんな根も葉もない話をどこから?」
「ちょっとした筋だ」
小太郎は、その『ちょっとした筋』という言葉に聞きおぼえがあった。
「殿、またですか?前も俺ん家来た時に言ってましたよね?」
「そう、あの時も使った」
喜一朗は後輩の言葉の乱れを注意することも忘れ、焦り始めた。
「殿、その筋は何なのですか?隠密ですか?忍ですか?」
「どっちでもいい。そのうちおしえてやる。とにかく今はお前の話が聞きたい。早く言えよ」
「なにもありません。あ、そういえば用事を思い出しました。失礼いたします」
そそくさと逃げ出す喜一朗を見ながら、政信は小太郎に命を下した。
「……良鷹、捕まえろ」
「はい!」
小太郎は走って先輩を追いかけ、はがいじめにした。
腕を回した瞬間、彼は変な反応を示したが、すぐに暴れ出した。
「良鷹、離せ!」
「殿の命令ですので、離せません」
「いいや、逃げる!お前柔術苦手だからな」
言葉通り、すぐさま小太郎の腕から逃れた。
「ほらみろ。……あっ」
その先には政信が待ち構えていた。
妙な笑みを湛えて……。
「行かせないぞ」
「いいえ、逃げます!」
政信は、喜一朗を捕まえ押さえ込むのかと思いきや、脇やら首やらをくすぐり始めた。
様子がおかしくなってゆく喜一朗を眺めながら小太郎は主に聞いた。
「殿、喜一郎殿はくすぐったがりですか?」
「あぁ、この前取っ組みあった時に触ったら、異常な反応示したからな」
その言葉通り、喜一朗は盛大に暴れはじめた。
「殿!くすぐらないでください!」
「さぁ、吐け」
政信はくすぐりを続けた。
「イヤです。うっ。ひひ……」
「もっとやらんとダメか?」
さらに激しくくすぐった。
「ひっひひ。はぅ。イヤ!やめて!くすぐらないで!」
あまりに喜一朗がくすぐったがり、奇声を上げて笑うので
政信は呆れかえってしまった。
「……男が悶える姿はみっともないな、早く吐けよ」
「わかった!わかりましたから、くすぐらないでください!」
「よし。効果はあったな」
力尽きた喜一朗は、観念した様子で話し始めた。
「……許婚は、弟思いの、優しい女子です」
「弟?お前、そんな女じゃ、弟に負けるんじゃないか?」
「その弟は私にとっても弟みたいな者です。勝ち負け関係有りません」
「どうだかなぁ?弟のほうが男前だったらやばいぞ」
意地悪く、政信が言うと、喜一朗はすぐさま返した。
「年が結構離れているので平気です。はぁ……。殿二度とくすぐらないでくださいね!」
「おっ。初めて俺に指示したな」
「脇は本当にダメなんです。お願いいたします」
「ふぅん。で、喜一朗祝言は?」
喜一朗の脇の弱さより、彼の今後が政信には気になったようだ。
「……延期になりまして、未定でございます。何時になるのやら」
残念そうに言う喜一朗を見た政信も同じようにつまらなそうにぼやいた。
「そうか、おもしろくないなぁ。良鷹」
「はい。祝言なんて見たことないから見たいなぁ」
「俺もだ。葬式しか出たことない。そうだ、喜一朗の祝言二人で押しかけよう!」
「はい!」
二人で盛り上がる主と後輩にあきれ、ほぼ極秘の婚姻の情報を抜きとられ、喜一朗は茫然自失だった。
着物が乱れていることも気にせず、へたりこんだままだった。