異常気象、私は水の底で揺らめいた
言い知れない悲しみがこみ上げ、瞼が熱くなった。
涙は止めどもなく湧き出てきているのだろうけど、
流れ落ちる端から水の中にまぎれてしまって、
悲しみ以外の感覚を感じることができない。
私はうつむいた顔を両手で覆って号泣した。
水の底の嗚咽はもごもごとした音を出すだけで、
そのことが更に悲しさを増幅させる。
頭の中は真っ白だった。
もう、どうすることもできず、
ただただ泣きながら、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
と唱え続けた。
ごめんなさい、ごめんなさい、
だから、お願い、助けて
突然、彼の机の上の電話が鈍い音をたてて鳴った。
私は受話器を取り、おそるおそる耳を澄ませた。
全神経を受話器の一点に集中させ、
そこから漏れてくる砂漠の風のような音に聞き入った。
ただの雑音?・・いや、水流音だ。
私は顔をあげ、蛇口をキュッと閉じて水を止めた。
目の前の鏡には、泣きはらした赤い目の自分が映っている。
私は濡れた顔をタオルで拭って、
鼻をチンとかんでから、鳴り響いている電話の受話器をとった。
受話器の向こうから彼の声が聞こえてくる。
これから一緒にお茶でも飲まない?と、
いつもの言い方、聞き慣れた彼の声。
うん、もちろん、すぐに行くね。
私は答えて電話を切り、
玄関のドアを開け、鍵を閉め、
軽やかにアパートの階段を駆け下りた。
作品名:異常気象、私は水の底で揺らめいた 作家名:ナガイアツコ