アーク_2-1
「それに、パラスはあんたの同期でしょぉ? 失敗の穴埋めをしてやりなさいよぉ」ユノは追い討ちをかける。「まったく、こっちは猫の手だって借りたいくらいなのに。ねぇ、ベルちゃん?」
「猫の手は借りたいかもですけど、カエルの手は別にいらないです」
アークの方を見ながら、ベルは言った。
「ああ? カエルだぁ? 見て分かんねーのか、竜だよ、竜。目ん玉ついてんのか?」
「あんたこそ、どんなセンスしてんだか」
「おーおー、聞きましたか? 女のほうが同行を拒否してますけど」
アークは丸い手足を振り回す。
「拒否したって、あんた以外付いていける奴がいないんだからしょうがないでしょぉ? 天使がいないと危ないじゃないの。それともなんなの? あんた、このユノ様の決定に不服があるわけ? 見習い天使のくせに?」
神とは思えない口上である。チンピラのそれと変わらない。ベルもアークもレーンでさえも、空いた口が塞がらなくなった。
「おおお、そんな台詞を吐きますか。とても十二柱神の台詞とは……」
「――それに」
不意に、ユノの目が怪しく輝いた。
「行方不明になったメーフィスなら、喜んで手を貸してくれたでしょうに」
金色に輝く瞳は宇宙だ。その向こうに底知れない何かを秘めているかのよう。あの主神像の前で感じたのと同じ感情、畏怖が、心に湧き上がって抗えない。
ユノの言葉は、アークの「何か」を十二分に刺激したようだ。
「確かに。奴ならそうするでしょうね」アークは急に凛々しい顔になった。「いいでしょう。その任務、俺が請け負います」
「それでこそ、天使だわ」
ユノはニヤリと笑った。あの瞳の輝きは、いつの間にか消えうせて、そこらへんのオバさんのそれに戻っていた。
「それじゃあわらわは公務に戻るとするわ。またね、ベルちゃん」
ユノの姿が消えうせると、レーンは鳥篭から紙片を取り出して、ベルに渡した。
「これ、次の行き先の地図ですっ。じゃあ私も、次の宅配にいってきます! また次の街で会いましょっ?」
「え? ああ、うん。じゃあね」
金色の瞳の輝きが抜け切らないベルは、半ば呆然としながら手を振った。
「あっのっひっとの~」
魔女っ子のテーマソングを口ずさみながら、レーンは青い空の彼方へ飛び去って行った。