センチメンタルシティ
――2012年・夏
僕に黄昏は似合わない。特に夏は。汗が噴き出して仕方がない。
そんな僕は今、個性色の強すぎる癖して美しいと手を叩いてしまうような「もの」に包まれた、彼女、薫がその「もの」から出てくるのを待っている。柱の陰に身を潜めて。いわゆるサークルってやつ。
僕もなかなか阿呆な事をするものだ。時計を忘れて何時か分からないが、恐らく1時半頃だと思う。
鼻の下の汗を拭うと、彼女のいる教室から、笑い声やら椅子を動かす音やらが聞こえてきた。すぐにドアが開く音もして、わあわあと人が出てくる。
柱から身を乗り出すと薫と目が合った。彼女の目は大きく見開き、忙しく黒目が動き回り、終いには彼女自身もぐるぐる回り出して、混乱を僕に表現して見せてくれた。
そんな薫に僕はゆっくり歩いて近付き、その動きを止めなくてはならなかった。
「薫? ねえ、薫?」
「どうしてあなたがいるの? 土曜はバイトだって言ってたじゃない」
「バイトは無しになった……、というか……」
ああ、格好つけるとあとが面倒だ。
そう思った僕は、覚悟を決めて打ち明けることにした。こんな時間からこんなところで汗を垂れ流し、たそがれる羽目になった原因を。
「それが……、クビになっちゃってさ……。あはは」
「クビぃ?!」
彼女が素っ頓狂な声を上げる。それが廊下に反響し、何人かが僕らの方を振り返った。まあ、無理もない。
そう思いつつも、声を潜めて釘を刺す。
「声が大きいよ……」
「あ、ごめんなさい。で、どうするの? これから」
くすりと笑ったかと思うと、彼女は真面目な顔になり首を傾げた。
「新しいバイトを探すよ」
「透に見つかるかしら……?」
「さあ? でもそうするしかないし」
「それもそうね」
口に手を当ててころころ笑う彼女。
最近髪を切ってショートヘアになった。
作品名:センチメンタルシティ 作家名:もの