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学校ろーるぷれいんぐ1

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「落ち着くんだ。ほら深呼吸して。」
 栗山は息を震わせながらもゆっくりと深呼吸をした。
「よしいいこだ。しばらく駅の方は見ちゃダメだ。俺はちょっと様子見てくるから、ここで待ってろ。」
 栗山は頷くと三角座りになって顔を埋めた。
 ……しかし一体なんだ。こんな平和な町で殺人事件か? あってほしくないな。
 そう思って人だかりを掻き分けて見ると、そこにはおぞましい光景が広がっていた。
「………なんだ……これ……。」
 それを見たとき、俺は一瞬倒れた男性に何か違和感を感じた。その違和感はすぐに判明した。
「……かわいそうにな。頭半分無くなっちまって……。」
 隣にいた男性がぼそっと言った。
 そう。男性のその気のいいスポーツ刈りの頭は、体には不釣り合いの大きさだったのだ。ひどいという言葉が一番に浮かんだ。たぶんこれは他殺だろうから、余計にそう思ったのかもしれない。
「……バス使うか……。」
 自分でもビックリするほど冷静だった。それはもちろん、自分ではこの状況をどうにかすることは不可能だとわかったからでもあるし、何より今は栗山のことを最優先にしないといけないと思ったからだ。
 栗山のところへ戻ると、彼女は相変わらず三角座りをしていた。
「駅は通れそうにない。バスを使おう。電車は無理そうだろ?」
 栗山は頷いた。
 もちろん違う入り口から入れば電車が使えるのだか、ここから一番近い西口にいくにしろ、バスロータリーにいくよりは遠回りになってしまうのだ。それに栗山からしたら電車というワード自体一時的にトラウマになっていそうだったので、そこはやはり気を使ってやらないとダメだろう。
「大丈夫か?」
「……はい……。」
 少しまだ体が震えて硬直しているようで、俺は栗山の肩を支えながら歩いていた。
「……やっぱり……。」
「え?」
 栗山が今何か言ったような気がしたが……。どこか遠い目をしていたからそうは見えなかったのかもしれない。
「……やっぱり羨ましいです……。……こんなに優しい彼氏をもっている彼女さんは……。」

 □□□□□

 病院は行きたくないということだったので、栗山は直接、俺が前にいた牧岡北高等学校へと向かっていった。少し心配だったが、気を遣わせたくないという栗山の内が見えてしまったので、ここは大人しく、新しい俺の仕事場へ向かうことにした。
「……遅刻は免れたか……。」
 時刻は八時二十分を差していた。職員会議は今から十分後のはずなので、たぶんギリギリセーフだろう。
「槝崎先生。お待ちしてましたよ。」
 職員室に入ると、教頭先生らしき女性が近寄ってきた。
「すみません。ちょっと予期せぬ出来事がありまして。」
「駅前の事故のことですか?それは大変だったでしょう。」
「え……?」
 えらい反応が速いな。
 あの惨事の情報がもうここまで広がっているなんて。すごい情報網だな。
「さぁ、もうすぐで職員会議が始まりますので。こちらへどうぞ。」
 そう言うと教頭先生らしき人は、俺が今日からお世話になるデスクへと案内してくれた。えらく丁寧にしてくれたのが少し違和感だったが、それが彼女の性格なのだと思うと、なんだかほっとすることができた。
「おはようございます。今日も張り切っていきましょう。」
 会議が始まり一番に口を開いたのはさっきの女性だった。あの人校長だったのか?
「校長先生は今日出張なんだよ。」
 突然横から話しかけてきたのは、三十代くらいの男性教諭だった。
「よろしくな。俺は中村康次。数学と、たまに歴史を教えてる。」
「槝崎健悟です。今日から色々よろしくお願いします。」
「あぁ。わからないことがあったら何でも聞けよ。」
「はい。」
 なんだか男らしいというか、熱い先生だな。絶対に悪い人ではない感じがする。
 職員会議が終わった後も、中村先生は俺を教室に案内すると言って気を遣ってくれた。
「お前の担当になるクラスは面白いやつがいっぱいいるぞ。前に二年一組を担当してた左門先生もよく生徒の話をしてくれたんだ。」
 なんだ。前の先生の話はしていいんだ。
「不慮の事故で亡くなられたって聞きました。」
「…………。」
 あれ? やっぱりまずかったかな。
「先生?」
「あぁすまん。ついあいつのことを思い出してしまって。」
 そんなにいい先生だったのか。せっかくだし、色々聞いてみよう。
「どんな先生だったんですか?」
「ん? ……あぁ。俺と同期の女の先生だったんだがな。これまた優しすぎてすぐに生徒にだまされたりしてたんだ。」
「うわ。気の毒ですね。」
「いやいや。それが生徒も先生も楽しんでたんだ。人気のある先生だったから、そんなに悪意に満ちた騙しはしていなかったそうだよ。」
 へぇ。生徒と仲がよかったんだな。
「まぁよくあったのは、宿題を忘れたときに先生に適当な嘘をつくってやつだったらしい。」
「ほんと先生すぐ騙されるんだよ。」
「うわっ! いつの間に!?」
 横にひょこっと現れたのは、二年一組の生徒であろう女の子だった。
「姫野か。お前も確か左門先生とは仲がよかったよな。」
「うんっ! ミキちゃんはね、とってもいい人だよ。私が保証する!」
 姫野とよばれる子はなんともまぶしい笑顔を見せた。
「ミキちゃんか。相当仲がよかったんだね。」
「うん。まぁ悪い風に言っちゃうと、なめられてたから、みんなすぐにミキちゃんに話しかけて、ミキちゃんもそれに丁寧に答えるから、話が弾んじゃって、みんなすぐに仲良くなっちゃったんだ。」
 ふぅん。左門先生の優しいところが、生徒と仲良くなるまでの良いサイクルを作ったのか。
「ほれ、お前らの教室だ。しっかりな槝崎先生。」
「はい。ありがとうございます。」
 すると突然中村先生は俺の耳元に顔を近づけてきた。
「あまり生徒の前で左門先生の話をしない方がいい。姫野はあれで結構無理しているんだ。」
 先生は小さな声でそう言った。
「はい。わかりました。」
 俺だってそんなにダイレクトに話すつもりはなかったけど、先生とその話をして少し油断していたのは確かだった。そういう意味では今の忠告はありがたかったな。
 姫野さんは少し俺たちの話を気にしてたものの、すぐに教室に入っていった。
 こうして教室を目の前にすると、なんだか気合いが入るというかなんというか。前にいた学校では当たり前だったが、やっぱり新しいクラスだけでなく、新しい学校となると、教室の前に立つだけでも、何か経験したことのあるような、そんな緊張が感じられるような気がする。
「きりーつ!」
 教室に入るや否や、クラスの委員長らしき女の子の声が聞こえてきた。
「礼!」
「「おはようございます!」」
 すごく元気のいい挨拶だった。ほんとに圧倒されるくらい。
「おはよう。今日からこの二年一組の担任になる、槝崎健悟です。一学期のこの時期からっていうのは珍しいけど、みんなと仲良くなるまでの時間は十分にあると思うので、これからよろしく。」
 そういうと、どこからともなく拍手が湧いてきた。ほんとにいいクラスだな。
「担当は一応理科だから。……えっと、確か今日の一時限目だな。」
「はいっ! はいっ! 先生質問っ!!」
 誰かと思えば姫野さんだった。
作品名:学校ろーるぷれいんぐ1 作家名:弦さん