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流れ星に願いを

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 闇夜に沈んだ町。目が覚めて、辺りは暗くて、待っても待っても、朝は来なくて。ちっとも明るくはならないから、もしかしたらお日様は死んでしまったのかもしれない。
 そんな闇の中で、家族も友達も知り合いも、ずっと眠ったまま。呼んでも揺すってもはたいても、誰一人目を覚まさない。まるで等身大のマネキンみたいだ。
 人だけじゃない。犬や猫も。闇夜に舞うコウモリさえ、宙に浮いたままで静止している。
 町が、眠っている。昏々と。静かに。もしかしたらみんなは、体を捨ててどこかへ行ってしまったのかもしれない。それこそ、天国かどこかへ。
 それはまるで、世界の終わりのようだった。
 風はなく、空気は少しも動きはしない。水は流れず、川面には小波すら立たない。夜露もそのままの美しい花は、手折るとガラス細工のように砕けてしまった。ただただ、静か。
 夜の底。眠りの深淵。闇に閉ざされた世界。
 どれくらい時間は過ぎただろう。町中の時計は一つ残らず動きを止めていて、時間の流れを教えてはくれない。
 一人ぼっちだった。
 紲(せつ)は、もう長いこと町を歩き続けていた。
 持っている物といえば、ガラス張りのランプだけ。その灯りはひどく弱々しく、不安を取り去ってはくれない。孤独を消し去ってはくれない。
 見上げれば、満天の星。その微かな瞬きだけが、生きていた。手を伸ばしても、決して届かないところで。
 淋しかった。一人ぼっちで、明けない夜。草木も眠りの中。淋しくて、淋しくて。
 叫び声は常闇に消えるだけ。不安ばかりが募る。
 暗がりは、嫌いだ。心が騒ぐから。
 孤独と焦燥と苛立ち。息が詰まって苦しい。聞こえてくるのは、自分の嗚咽と息遣い。それから。それから…。
 音が、聞こえた気がした。自分の立てたものではない、音が。慌てて息を止めて。動きを止めて。呼吸まで押し殺して。耳を澄ます。
 心臓の鼓動がうるさい。いっそこの音も止められたら、と、とんでもないことを思う。けれど、そんなことをしなくても、それは確かに紲の耳に届いた。
 辺りに漂う闇を蹴散らすような。微かな風を纏った、力強い音。静寂を裂いて響くような、鳥の羽音だ。
 それは、町のどこかを飛んでいるらしく、羽音は聞こえても姿は見えない。ランプの灯りは小さく、弱く、頼りない。
 羽音は徐々に遠ざかっていく。紲は慌てて走り出した。
 ランプが揺れて、光の輪がぶれる。その端を、黒い塊が飛び去るのを見た。低空を飛んだ羽音の主は、路地裏へと消えて行った。

作品名:流れ星に願いを 作家名:依織