星の見える丘で
光は毎年少しずつ、目に見えて弱っていた。
荒い音を立てて流れていく水の向こうで、命を失っていく彼女は一粒の涙を零した。呼び水のような一粒は濁流を生み、流れは狂ったような飛沫を上げて容赦なく僕と彼女を分かつ。
橋は、架からなかった。
向こう岸で彼女が何かを叫んだ。声はごうごうと唸る波音に掻き消されたけれど、言葉ははっきりと伝わった。
もう、時間がないと。
ゆっくりと消え行く彼女の光と、少しずつ薄れ行く自分の輪郭。時間が永遠ではないことを悟った。終わりがあることを知った。それほど遠くない未来を理解した。
一年一度の約束を、守れないまま何年が過ぎただろう。今日がだめでも来年がある。再来年があると。それが幻想だと気付いた後も、雨は冷たかった。
わかっていると、口にしたつもりの言葉はささやき声にすらならなかった。
俯いたまま何もできずに佇む僕に、向こう岸の彼女は黙って背を向けた。あれは、一年前のこと。
季節が巡って。蝉が鳴き、木枯らしが歌い、雪が踊り、緑が輝き、また雨の季節がやってきた。
向こう岸の彼女はいっそう輝きを無くしたけれど、今年も薄雲が辺りを覆っていた。カササギは振り向きもせずに飛び去って、僕と彼女だけが残された。決して手の届かない距離を残して。
その時、不意に彼女が川の中に足を踏み入れた。流れに足を取られて呆気なく転んでは、また立ち上がる。どこか困ったような笑顔で、しっかりと前を向いて。岸部で慌てる僕の耳に、彼女の声が確かに届いた。
会いたい、と。ただ、まっすぐに。
気が付いた時には、駆け出していた。
水は思う以上に冷たかった。流れは速く、水かさはどんどん増していく。遠くから腹の底に響くような水音が聞こえた。それでも、もう迷う必要はなかった。
初めからこうすればよかった。呟いた言葉は確かに相手に伝わって、彼女は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
温かい手を取った瞬間、辺りは荒れ狂う波に飲まれた。最後に聞こえたのは、約束の言葉だった。
いつかまた、どこかでと。