「レイコの青春」 40~最終回
「吉報が、もうひとつあるの。」
嬉しさに目をうるませて高揚している、陽子の耳もとで、
レイコが小声でささやきます。
「やっとのことで、ピアノの単位が取れたのよ。
ここだけのはなし、
美千子には随分と苦労をさせてお世話にもなったけど・・・
あとは、残りの単位の習得だけで、
目標通りに、3年間での、保母資格取得の希望が見えてきました。」
「うわ~、そうなんだ。
レイコさんも、頑張りましたねぇ~。」
「ちょっと。・・・悪いけど、
私は、そこにいるレイコなんかよりも、
もっと、何倍以上も、頑張ったわよ。」
腕組みをした美千子が、レイコの背後へ現れました。
陽子が怪訝な顔で、美千子の顔を見つめます。
「レイコったら、
何度教えても、何度も、同じところでつまずくんだもの。
きっと、才能が足りないせいだと思うけど、
練習をいくら繰り返しても、さっぱり成果が出ないのよ。
あたしだって、レイコのためだからと、根気強く頑張ったけど、
教える方が嫌になっちゃった。
もっと器用だと思っていたのに、予想外なほど駄目すぎるんだもの、
やっぱり保母には向いていないと、あの時ばかりは、私も心底思ったわ。
やっぱり、レイコは保母にはなれない運命なんだって・・・・。
でもさぁ・・・結局、何とかやり遂げたんだもの。
よくよく頑張ったと思うわよ。
粘り強く頑張ったというだけの、甲斐がありました。
レイコも!
そして何よりも
この、あ・た・しも!!!。」
「あら~、
さすがに美千子さんは、鬼のピアノ講師です!
そこの部分だけが、見事に強調をされていて、
誰が聴いても、いちばん強い【フォルテッシモ】になっています!」
陽子が声をたてて笑っています。
※「フォルテシッモ」とは
楽器演奏用語のひとつで、「最も強く」と言う意味です。
作品名:「レイコの青春」 40~最終回 作家名:落合順平