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「レイコの青春」 40~最終回

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 先日の台風で、家の周囲のブロック壁とフェンスが、
隣の田んぼへ倒れてしまって困っていると言う話が、舞いこんできました。
それっ とばかりに翌日の日曜日になると、事務局メンバーを中心に
保護者10数名が手に手に、ハンマーやスコップなどを持ち、
現場に集結をしました。
小型トラック数台を使って、20数メートルほどあったフェンスと、
トラック数台分のブロックを半日ががりで集めてしまいます。


 フェンスは保護者たちの手によって、
園庭を取り巻く柵の一部になり、細かく砕かれたブロックは、
ベランダ用の砂利として利用されることになりました。



 しかしここで一番困った問題は、飲料水の確保です。
水道管がはるか遠くを通っているため、そこから水を引いてくるためには、
何人かの家の敷地と、田畑を通らなければなりません。
その土地が誰のものかも解らないので、とりあえず水道水をあきらめて、
井戸を掘ることになりました。

 ところが、実際に掘削を始めると、
周囲が水田のために水位が高く、井戸掘りは、きわめて難工事となりました。
しかも、やっと完成をしてみると亜硝酸性窒素の痕跡などが見られ、
大腸菌群推定の試験でも陽性となり、飲料水には不適と
断定をされてしまいます。


 更に深くを掘ってみましたが、陽性は変わらず、
モーターをフル回転させて何度か井戸を空にしてみましたが、
やはり結果はだめでした。
結局、地元業者に依頼をして、少し遠回りに水道管を埋設しながら
園舎まで導き入れて、ようやくにして飲料水を確保する事が出来ました。



 「あらまぁ、陽子さん。
 今度ばかりは、経費削減は空回りでしたねぇ。
 井戸のポンプ同様に、作戦も見事に空回りをいたしましたが、
 これもまた、成長の糧のひとつです。
 たまには、水道管と同様に、遠回りすることもあるようです、
 まぁまぁ、腐らずにいきましょう。」


 落胆をしている渋い表情の陽子を、仲町の母が優しく慰めている・・・
そんな一場面などもありました。



 工事が始まってから約3ヵ月あまり、
11月の初めになって、(ほぼ予定通りの工期で、)敷地が258坪、
建坪56坪の園舎が完成をしました。
11月14日には、新築された園舎へ引っ越すことも決まり、
陽子もようやく肩の荷が下り、胸をなでおろしています。


 完成した保育園は、
白いなめこの壁に、赤瓦をいただいた平屋建てです。
建物の真新しさはそのまま、内容的にも全く新しい保育が
ここからスタートすることを意味しました。
ゼロ歳児と乳幼児を受け入れるという
県下でも数少ない先進的な保育園のひとつが、働くお母さんたちと
市民の協力のよって、ついに桐生に誕生をしました。





 明けて翌年の1月になると、
県と市による検査も、無事に完了をします。
その結果として厚生省の規準で、必要とする全てのものが
そろえられていることがしっかりと確認をされ、
晴れて「合格」の決定が下されました。


 さらに1月30日になってから、正式に
知事にたいして、なでしこ保育園の設置についての申請を提出します。
2月14日、児童福祉法第35条3項の規定に基づいた認可が、
県知事より、ついに「なでしこ」へと届きました。
世間がバレンタインで浮かれているこの日、
正式に、認可保育園の「なでしこ保育園」が、その誕生を迎えました。