うこん桜の香り
川から吹いてくる風が2人を近づけてくれた。
どちらからともなく腕を組んだ。
「今日はゆっくりできるんでしょう」
「ひとり者ですから」
「私もそうよ」
百合と西山達だけではない、ここを歩いている誰もが幸せなように二人には見えた。
西山は手袋を通しても百合の温かな体のぬくもりを感じていた。
出来ることならこのまま歩き続けていたい気分であった。
百合の香水の臭いが、今の西山には、眩暈のするほどの出来ごとに感じていた。
春、桜の咲く季節まで、このぬくもりのままで我慢して行こうと西山は思っていた。
咲いた桜は散るのも早いから、この香りを覚えておきたいのだ。