うこん桜の香り
(時間が無いのにごめんな)
稔は心の中で波子に謝った。倒れたイーゼルを起こし、波子の描きかけの絵に筆を走らせた。
涙が波子の描いた絵の上に落ちた。その絵をなぞりながら砂の上に吸い込まれていった。それは稔が波子の体を女と感じた時のように、後から後から波子の体に触れるかのように落ちて行った。
あれが事の始まりなのだ。あんなことさえしなければ波子も自分をこんなにも嫌いにならなかったかも知れない。
稔は絵がどうにか形になると、裸になって海に入った。
泳いで行くうちに、岩の上に波子が見えた。
稔は立ち泳ぎをしながら、波子に手を振った。其の時、大きな波が来た。波に体を運ばれて、岩に当たったまま気を失った。