うこん桜の香り
そんな波子を稔は女として感じ始めていた。
百合がいない安心感もある。
「体洗うよ」
稔は波子の体を洗いはじめた。今まで何回となく洗っていた体であるが、稔のなかに波子を女と感じた時、稔の手の力は自然と百合を愛撫するかのように、ゆっくりと柔らかな動きになっていた。
「くすぐったいから、もういい」
波子はシャワーを浴びて出てしまった。
その日から波子は稔と風呂に入らなくなった。
稔は波子が風呂に入ったのを見ると、バスタオルを持って来たとか、シャンプーはあるかとか様子を見に来た。
波子は裸を見られることが嫌になった。同時に父親が嫌いになった。
今まで可愛がっていた波子に嫌われていると感じた稔は、自分の子ではないという意識が大きくなりだした。
波子を女として感じ始めた稔は、波子が成長するほど、その意識が強くなっていた。そして今まで自分を騙し続けた百合にも、愛が憎しみに変わり始めた。
百合に復讐するのであれば、波子を犯してしまえばいいのだと思い始めた。
波子が佐渡に行く日に稔も銀行に休暇届けを出した。
稔の心の奥のどこかには、まだそんな恐ろしい事を許さない気持ちもあった。
波子の日程を手にして稔は考え始めた。