うこん桜の香り
恋文
波子の好きだという教師の名は川田正巳、28歳であった。
美術担当である。すでに結婚して2年経っていた。
背の高い、筋肉質で、若い生徒の憧れであることが一目で解る。好青年である。
百合は電話で面会を申し込んだ。波子の母親であることは隠して、絵の事を教えて欲しいと言った。断れないようにと、校長に先に許可を取っておいたのである。
美術の教官室に案内された。絵の具の臭いがして来た。
「どんな質問でしょう」
「欲しい絵があるのですが、先生に見て頂ければ助かるのですが」
「そういう事でしたら、いつでも」
「ありがとうございます」
「こんな所なのでお茶も出ませんし、用件がすみましたら、失礼させて頂きたいのです。生徒を待たしていますので」
「それでは、お電話いたします」