7月7日 銀河の恋の物語
銀河の恋の物語
東京に一人暮らしの娘から引越しの手伝いを頼まれた。
「7月6日の金曜日だから忘れちゃだめだよパパ」人の都合も考えないで簡単に頼みごとをしてくると電話はすぐ切れた。やれやれ、うちのお嬢様は我が儘なんだから。大体、引越しを手伝ってくれる男の子とかそばにいないのか。まあ、いたらいたで心配なのだが・・。
ネットの中で長く付き合っている彼女に愚痴にも似たメールを送っていたら、
「じゃ~私も東京に行こうかな」と返事が来た。
新幹線で2時間の距離に住んでいる彼女もまた娘が東京に住んでいるらしい。
金曜日の夜から日曜日までの週末を「どうせ暇だから娘のとこで過ごそうかな」とあっさり返事して来た。
「じゃ、どこかで待ち合わせして会おうか」彼女とは長い付き合いだが一度も面識がなかった。写真の交換はしてたが実際の顔は知らない。僕は内心どきどきしながら彼女にメールを送った。
「いいわよ。私もそのつもりで東京へ行くんだから。会いましょう」
「どこで会う?6日は引越しだから7日には空いてるな」
「どこに泊まるの?」
「まだ決めてない。娘の部屋はワンルームで狭いし、きっとホテルを予約しなくちゃならないな。おたくは?」
「私は娘の部屋で泊まれるけど、近くにいいホテル知ってるよ」
「じゃ、そこにお願いしようかな。じゃ会うのは7日の夕方7時ってのはどう?」
「七夕の日だね。なんだかおかしい」
「1年に一度の逢瀬じゃないけど、なんだか夢がありそうだ、いいんじゃない」
そうか七夕だったのか。最近はそんな行事も忘れていた。小さい頃は笹の葉に願いを書いて吊り下げてもらってたな。どんな願いを書いていたんだろ・・・。
そんな事をぼんやり思い出しながら、
「じゃ、場所は銀座で会おうか。七夕だし銀河に引っ掛けて」
「ふふっ、駄洒落なの?」
「もうひとつ、銀座の恋の物語にひっかけて「銀河の恋の物語」でもどう?」
「デュエットで歌うわけ?おじさんね」
「いや、歌いはしないけど思いつき」
「私は「銀河のロマンス」がいいな」
「それだって、充分に古い。タイガースだろ」
「私達、もうすでにおばさんおじさんね」
「お互い子供も大きいんだし仕方ない。それに誰だって老けるんだよ」
「私老けてる?まだまだ老け込んじゃいないわ。あなたは老けてるの、老人に近い?」
「まさか、まだバリバリの現役だよ」
「なんの?(笑)」
「・・・・・いろいろ(笑)」
短いメールで何度もやり取りをして、僕達は7月7日夜7時、銀座で落ち合うことにした。彼女は結婚している主婦だ。結婚している異性との出会いは罪の意識が広がる。でもそれは勝手な僕の妄想であり、初対面でそういう関係になることはまずありえない。
しかし、妄想は勝手に広がり始め「もしも恋に落ちたら」と昔の金曜ドラマの展開を作り上げてしまう僕は、その日から7日の出会いを楽しみにした。
作品名:7月7日 銀河の恋の物語 作家名:海野ごはん