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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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いびつ

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雨はどこへ行ったんだろう。


少女はさ迷った。ただ、さ迷い続けた。行く当てなどなかった。それどころか自分が何をしているのかさえもう分からなかった。それでも進まなくてはいけなかった。何かが少女の心を急かしていた。
心を縛っていた。

けれど、それだけが唯一の熱なのだ。

少女は女だった。少女と呼ぶには大きくて、女性と呼ぶには未成熟。けれど、歪であったとしても、少女は女だった。







雨の中、少女はある男に出会った。
梅雨空はどこまでも陰鬱で、じめじめと蒸し暑い空気が脳髄まで侵食していくようだ。きっと空の灰色が人々の心に染まって、心が傷口から膿んでいく。膿を吐き出すこと。いくら厭おうとも、それは生命活動なのかもしれない。


男は傘を手に持っているくせにずぶ濡れで、どこか見ているものを不安にさせる奇妙な雰囲気がした。

雨から生まれた男。少女はなぜかそんな奇妙なことを思った。生まれる前、人は
女の胎内で水の中にいるような印象を持っていたから。実際のところがどうなのか少女には分からない。少女は、ただの少女だ。

だが、少女もまた傘も差さずに水に濡れていた。少女の世界は闇色だ。何もない、何も感じないただの闇。陰鬱な雨の音は彼女に馴染んだ。蒸し暑い空気の中、頭がぼんやりとして少女は夢の中にいるように感じていた。雨に濡れる体は、熱くて、冷たい。
ぽたり、ぽたり、雫は生き物のようだった。

少女は思う。雨は自分とは違い生きている。生きている。



男は黒い服を着て、雨の中にいた。ぼんやりと霞む白い雨の世界の中で唯一の影のようだった。
そして、雨に濡れた男は、傘を持ったまま少女に近づいてきた。

男は傘を少女に差しかけた。

そして、笑った。

いびつな笑顔。



ただ、それだけのこと。
けれど、それだけで、それだけで良かった。
作品名:いびつ 作家名:冬野すいみ