勿忘草とワンピース
あなたは大切な人間が突然居なくなってしまった事はあるだろうか?
私、飯島奈緒はある。
坂野結子は親友だった。
小学校の頃に出会ってからずっとクラスが同じでたまに一緒に帰ってもいたけれど、ある日突然居なくなってしまった。
とんでもなく明るい性格のくせに体の弱かった結子は、小学校生活の約半分は病院で生活していた。だからこそ、たまに学校に来たときはいつも一緒に帰っていた。それこそ雨の日も風の日も――雪の日に学校に来れたことは無かったが――それでも小学校の歴代のクラスで一番仲が良かったと自負できる。
でも中学に上がると結子は体調を崩すことが多くなり、とうとう病院に入院することになってしまった。
幸い、結子がいた病院と中学校は目と鼻の先にあったので、私は勿論毎日のようにお見舞いに行っていた。
そんな春先のある日に――結子からほぼ初めてと言っても良いワガママを仰せつかった。
「奈緒ちゃん! 勿忘草を見てみたい!」
「えーと……何故に?」
その時は正直、いきなり結子から満面の笑みでそんなこと言われたので困惑してしまった。
「勿忘草ってねー、園芸用の花でもあるんだけどいろんなところに生えててね? 青い花を咲かせるんだよー」
「あー、それは知ってるけど……だから何故急に?」
「んー……何となく?」
何となくって……。
「……まあ道端に生えてるのは流石に駄目だから花屋行くか……」
「えー! 花屋で買ってくれるの?」
「え? うんまあ園芸用の花なら頑張っても植木鉢しかないだろうから切花にしてもらってくるけど」
「ごめんねー、そこそこ高いだろうに」
「んー、別にお年玉がだいぶ残ってるから大丈夫」
「ホント!? ありがとー!」
その後私は、二日後に勿忘草を大通の花屋で偶然見つけて結子に届けた。
でもその日私は大通まで行って疲れが溜まっていたらしく、結子にも勧められてその日は早めに帰ることになった。
そして次の日だった。結子の訃報が学校に届いたのは。
無理をしてベットから抜け出したせいで、貧血を起こして、病院の階段から思い切り落ちて、打ちどころも悪く、そのまま――。
あとから、結子の落ちた階段の近くに割れた花瓶と勿忘草の切花が落ちていた事も分かった。
多分、花瓶の水を取り替えようとしていたのだろう。
元々結子の両親は入院費を稼ぐために必死に働いていたので、三日に一回どちらかが来るのが限界というのはその両親本人から聞いて知っていた。
だからこそ、私に「結子の事を頼む」と言われたときは本当に嬉しかった。
なのにこの有様だった。
結子の葬式の時、誰も私を責めなかった。ただ慰めてくれた。
私ももう自分を責める事はしなくなった。今更どうしようもないから。
でもやっぱりふと思ってしまうのだ。もしあの時あの場に、私が居れば……と――、
さて、前置きはここまででいいだろう。
あなたはこの世にいないはずの人間と突然出会ってしまったという経験はあるだろうか?
私、飯島奈緒はある。
それはとある春の、日曜のことだった。
私、飯島奈緒はある。
坂野結子は親友だった。
小学校の頃に出会ってからずっとクラスが同じでたまに一緒に帰ってもいたけれど、ある日突然居なくなってしまった。
とんでもなく明るい性格のくせに体の弱かった結子は、小学校生活の約半分は病院で生活していた。だからこそ、たまに学校に来たときはいつも一緒に帰っていた。それこそ雨の日も風の日も――雪の日に学校に来れたことは無かったが――それでも小学校の歴代のクラスで一番仲が良かったと自負できる。
でも中学に上がると結子は体調を崩すことが多くなり、とうとう病院に入院することになってしまった。
幸い、結子がいた病院と中学校は目と鼻の先にあったので、私は勿論毎日のようにお見舞いに行っていた。
そんな春先のある日に――結子からほぼ初めてと言っても良いワガママを仰せつかった。
「奈緒ちゃん! 勿忘草を見てみたい!」
「えーと……何故に?」
その時は正直、いきなり結子から満面の笑みでそんなこと言われたので困惑してしまった。
「勿忘草ってねー、園芸用の花でもあるんだけどいろんなところに生えててね? 青い花を咲かせるんだよー」
「あー、それは知ってるけど……だから何故急に?」
「んー……何となく?」
何となくって……。
「……まあ道端に生えてるのは流石に駄目だから花屋行くか……」
「えー! 花屋で買ってくれるの?」
「え? うんまあ園芸用の花なら頑張っても植木鉢しかないだろうから切花にしてもらってくるけど」
「ごめんねー、そこそこ高いだろうに」
「んー、別にお年玉がだいぶ残ってるから大丈夫」
「ホント!? ありがとー!」
その後私は、二日後に勿忘草を大通の花屋で偶然見つけて結子に届けた。
でもその日私は大通まで行って疲れが溜まっていたらしく、結子にも勧められてその日は早めに帰ることになった。
そして次の日だった。結子の訃報が学校に届いたのは。
無理をしてベットから抜け出したせいで、貧血を起こして、病院の階段から思い切り落ちて、打ちどころも悪く、そのまま――。
あとから、結子の落ちた階段の近くに割れた花瓶と勿忘草の切花が落ちていた事も分かった。
多分、花瓶の水を取り替えようとしていたのだろう。
元々結子の両親は入院費を稼ぐために必死に働いていたので、三日に一回どちらかが来るのが限界というのはその両親本人から聞いて知っていた。
だからこそ、私に「結子の事を頼む」と言われたときは本当に嬉しかった。
なのにこの有様だった。
結子の葬式の時、誰も私を責めなかった。ただ慰めてくれた。
私ももう自分を責める事はしなくなった。今更どうしようもないから。
でもやっぱりふと思ってしまうのだ。もしあの時あの場に、私が居れば……と――、
さて、前置きはここまででいいだろう。
あなたはこの世にいないはずの人間と突然出会ってしまったという経験はあるだろうか?
私、飯島奈緒はある。
それはとある春の、日曜のことだった。