【無幻真天楼 第二部・第一回・参】そして僕にできること
頭からシャワーをかぶった京助が手で顔についた湯をぬぐいとる
少し鼻に入ったのかフンッと鼻から息を出した
湯船からはほんのり檜の匂いがしている
昨日父竜之助と一緒に入った時のことを思い出した
『緊那羅が好きか』
「…好きっつか…」
濡れた前髪から水滴がポタッと落ちる
「…好き…っつか…」
ボソボソと呟いているうちになんだか胸の中にモヤモヤが広がって痒くなってきた
「っだぁぁぁぁあっ!!;」
もしパカッと胸を開けられたらがむしゃらにかきむしった後ウナコーワとかキンカンとかぶっかけてやりたいくらいの痒さに京助が思わず声をあげる
しばらくしてバタバタと廊下を走る音が近づいてきたかと思うと
ガラッ!!
「京助!?」
ふきんを手にした緊那羅が勢いよく戸を開けた
湯船に入ろうとしていた京助が片足を湯船に突っ込んだ状態で固まる
浴室にこもっていた湯気が脱衣場に流れて視界が晴れてきた
「…きゃあ…」
京助が小さく言ってまるで女子のように胸を両手で隠した
「ごっ…ごめんだっちゃっ!!;」
緊那羅が開けた時と同じくらいに勢いよく戸を閉めるとまたバタバタと廊下を駆けていく
顔が熱い
心臓がドキドキしている
緊那羅が足を止めた
深呼吸をして呼吸を整えるとゆっくり歩きだす
落ち着いてきてふと気づいた
京助は男で
自分も男で
なのにどうしてこんなに照れたり恥ずかしくなったんだろう…
前に一緒に温泉に入ったし
着替えだって見ていたのに
まだドキドキしている心臓に手を当てる
「私…変だっちゃ…」
シャツをぎゅっと掴んだ緊那羅が呟いた
湯船に浸かった京助が天井を見上げる
いつ落ちてくるかわからない水滴がいくつも天井についていた
「また…俺の声聞こえたから来たんだろな…」
手に持っていたふきんはおそらく食器を拭いていたものだろう
「…なんだかな…」
ずるずると湯の中に沈んだ京助がブクブクと湯の中で息を吐く
竜之助に言われた
【緊那羅が自分の居場所になっている】ということ
そして自分が阿分に言った【いたいと思った所が自分の居場所】だということが同時に浮かぶ
「…緊那羅…」
小さく声に出した名前
途端にまたあの痒さに襲われて湯船の中に潜った
作品名:【無幻真天楼 第二部・第一回・参】そして僕にできること 作家名:島原あゆむ