TOKYO SPIRITUALIZER
俺は食卓テーブルの前に座った。俺の席は父さんの隣で、俺の領域となる机の目の前には、俺の小さな頃から敷いてある布製のランチョンマットがある。食べ方が相当酷かったのか、あまり目立たないが、至るところに茶色い色や赤い色が付着している。このランチョンマットは真っ黄色なので、見ると目がじらじらしてくるのであって、俺はこの明るい色が好きではなかった。できることなら早く取り払ってほしいものだが、母さん曰く、“朝食のときだけ”あなたはぼうっとしていて大きくなった今でも口からぽろぽろものが出てくるんだからまだ敷いておきなさい、だそうだ。…言われてみれば、そうかもしれない。昔からあった汚れに、俺は未だ汚れを増やし続けているのだ。――というか、母さんはこれを洗わないところが不思議だ。目立つ目立たない以前に、汚れたら洗っておいて欲しい。俺が洗えばいいことの話しだが。
「あ、ごめんね、雅。今、ご飯持ってくるからね」
朝ご飯を食べ、着替え、歯を磨き、顔を洗い――いつものように、いつもの動作を繰り返す。
――ああ、毎日毎日つまらない。
2
細かく言うと、俺は朝が嫌いなわけではない。
『学校』というものが大嫌いなのだ。
父さんより早く家を出る為、家を出て行くときは、いつも父さんと母さんの2人に「行ってきます」が言える。2人は笑顔で「行ってらっしゃい」と言ってくれるので、少しは学校へ行ってもいいか、という気にもなる。だが、登校している内に、徐々にそんな気も薄れていくのであって、しまいには、やはり家に戻ろうと思うときもある。しかし、父さんは仕事でいないが、母さんはだいたい家にいるので、そんなことは一度もやったためしがない。
また無駄なことに思考を巡らせている間に、学校へと着いた。『十字高等学校(じゅうじこうとうがっこう)』。
俺は校門を通った。俺と同じクラスの人や違うクラスの人、学年が上の人もごちゃごちゃになって通る。大抵の人が、そこで友達と挨拶を交わし、一緒になり、靴箱へと向かうのだ。そんな生徒を見るのも、俺は大嫌いなのである。多分、きっと皆が羨ましいのかもしれない。
――俺は友達がいないのだ。
生徒達の笑い声を早足で切り抜けながら、俺は1年1組の“天楽 雅(てんらく みやび)”と書かれた、まだ入学して1ヶ月も経っていないのに、早速剥がれかけているシールの貼られた靴箱へと向かう。
作品名:TOKYO SPIRITUALIZER 作家名:時環れいじ