彼がここにいる理由
私は一頻り拝んだ後、振り返る。すると、さっきまでいた男の人がふと姿を消していた。そして風が一陣、私の頬を撫でて吹きぬけて行った。まるで風が『寂しいだけじゃない』と言ったように、私は感じた。
「――おかしな話ね」
そう独り言ちて、私は道を引き返す。すると、迷っていたのが嘘だったかのように、見知った道へと辿り着くことができた。
林を出て、もう一度その廃村があった方角に目を向ける。そこにはいつもと変わらない姿の雑木林があった。
――最後に、もう一度あの廃村に足を運ぼうと思って雑木林を散策したのだが、どうしても辿り着くことができなかった。本当に不思議な話だ。