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DEAD END 和訳:行き止まり

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 恵一がむせるのが止まらない。次第にこれはただごとでは無いという空気が広がり、京子が背中をさする。口々に「大丈夫?」の声。そして、恵一は苦しそうに床にうつ伏せに倒れると、そのまま動かなくなった。恵一の体をゆすりながら「大鳥君!」と必死に声をかける京子や部員達。しかし・・・。恐怖で震えながら、涙声で京子がつぶやいた。
「嘘・・・嘘でしょ・・・そんな・・そんな・・・」
「息してない・・・息してないよ大鳥君・・・」
 恵一は死んだ。

4 一年後

 大鳥は面談室で担任の福田和彦と向かい合っていた。福田は生徒の前であるにもかかわらず、タバコに火をつけた。そうしないと、抑えているイライラが爆発してしまいそうだった。生徒にイライラをぶつけるよりは、タバコの方がましだ。と、福田は自分の心に言い訳をした。福田は恵一にゆっくりと声をかけた。
「なぁ大鳥・・・。オマエ、うちの学校に何か恨みでもあるのか・・・?」
 来た、と、恵一は思った。面談室に呼ばれた時から、この話題であることは確信していたが、やはりこの話題だったか、と。

 白北高校は今やバッシングの対象となっていた。白北高校では昨年と今年の二年間という短い期間の間に、3人もの死者を出していた。いずれも、部活中における生徒の事故死だった。一件目は昨年の夏、サッカー部を全国に導くと期待された生徒が、サッカーの練習中のアクシデントで亡くなっていた。Kという生徒だった。続いてはその一ヵ月後、茶道部の活動中、お茶を口に入れた際、気管にお茶が大量に流れ込んでしまうという不幸な事故により、またも一人の生徒が亡くなった。Kという生徒だった。三件目は今年の7月、将棋部の活動中の不幸な事故により、一人の生徒が犠牲になっていた。Kという生徒だった。
 同じ学校で起こった、3件の事故死。この情報がマスコミにより報道されたのが二学期の9月である。学校内部の誰かがネットの掲示板に書き込んだからこの情報が流れたであるとか、誰かの親がこのことを週刊誌に持ち込んだとか、情報の出所は様々憶測されている。
 そして某週刊誌が、白北高校の三件の部活中の連続事故死を、学校の管理体制の不備として告発する記事を書いたのだ。
 その報道から一連の事故死は巷の人々の知るところとなり、今や白北高校は安全管理に問題があるにもかかわらず放置し続けてきた極悪高校であるとして、ネットやマスコミのバッシングをいっせいに受けているのだった。

 とは言え。白北高校側から見れば、自分たちは被害者である、といったような意識があった。三件の事故死により、それぞれ別の3人の生徒が亡くなっているというのならば、安全管理体制への批判を受けても仕方ないだろう。しかし、この3件の事故は全て同一の生徒により起きている事故であった。死につながる事故というのは、普通はめったに起きるものではない。それが、短い期間に立て続けに、しかも全て同一の生徒によって起こされたものであるので、「何か学校に恨みがあって、わざとこんな、当てつけのように学校で死んでいるのではないか?」と、学校側が勘ぐるのも無理はなかった。

 そして、大鳥自身も、学校側に悪く思われていることを感じていた。最初の事故死の時は、確かに学校側は本気で自分のために悲しみ、反省し、辛い気持ちを自分と分かち合ってくれていたように思う。しかし、2回目、3回目ともなると、「またかよ・・・」という空気をどことなく漂わせるようになっていた。大鳥は鈍感な人間ではなかったので、それを感じていた。「わざとじゃあないんだ!!!!」と、叫び出したい気持ちだった。

 週刊誌で報道されると、学校側は露骨に、「うちの学校に迷惑をかけやがって」という態度を大鳥に取るようになっていた。そして、今日の面談という運びになったわけである。

「学校に恨みなんて・・・ありません・・・」
 消え入りそうな声で大鳥は答えた。信じてほしい。だけど。この気持ちは届くのか?
「恨みがないなら・・・なんでこんなに何回もウチの部活中に死ぬんだ?おかげで今ウチは大変なことになってるんだぞ?それは分かるよな?」
「ご迷惑をかけていることはよく分かっています・・・。けど、わざとじゃないんです・・・。本当です。もう、今後はこんなことが無いように気をつけますから・・・」
 一時間に及ぶ話し合いの末、大鳥は反省文原稿用紙20枚の処分となった。本来停学に値することであるが、マスコミから注目されている今は停学にもしにくいという、学校側の事情により、停学をまぬがれたのである。

5 二十五年後

 私は今、小さな町工場で働いている。妻と、二人の子供がいる。私はこの妻が二度目の結婚だ。子供のうちの一人は前妻との間にできた子供だ。上が男の子、下が女の子。生活は楽ではないが、愛する妻と子供達に囲まれ、ささやかではあるが幸せな生活を送っている。
 しかしここまでの私の人生は平坦ではなかった。サッカー選手の夢を諦めた私はその後勉強に打ち込み、世間では一流とされる大学へと入学した。そして一流と呼ばれる企業に就職。周りからも羨ましがられるような美人の奥さんをもらい、男の子をもうけた。が、順調なのはそこまでだった。
 私は仕事先の、とても重要な商談などの時に限って、不運にも事故に巻き込まれ、死んだ。それが3回ほど続くと、私の社内での評判は地に落ちていた。すなわち、大鳥は大事な時に限って死ぬ男であると。
 そうやって出世コースから外れた私の元から、前妻も去っていった。いや、この言い方は前妻に対して公平ではない。前妻はきっと、私が出世コースから外れても、一流企業勤めでなくても、私を愛してくれる、そんな人間だったと思う。
 前妻が去ったのは、きっと疲れていたからだろう。以前彼女がぽつりとこぼしているのを聞いた事がある。
「あなたが何度も死ぬから・・・その度にお葬式やらなんやで・・・私もう疲れたよ・・・」
 一度だけポツリとつぶやいたあの言葉。あれこそが彼女の本音だったのだと思う。
 もちろん恨む気持ちなど全く無い。こんなダメな夫と、それまでよく一緒にいてくれたものだと思う。感謝している。

 しかし、そののち結局会社からもリストラされてしまった。妻と会社の両方に捨てられたことで、私は自暴自棄になっていた。

 そんな時に出会ったのが今の町工場の社長である。「ウチで1からやり直してみないか?死んだ気になって頑張れば、今からでもやり直せる」その言葉を聞いて、涙が止まらなくなった。あの日の事は、今も鮮明に覚えている。あの日社長に出会ったおかげで、私はやり直すことができたのだ。
 その後、現在の妻と出会い、再婚した。恋や結婚に臆病だった私を、「たとえ死んでも愛してる」と言って受け入れてくれた妻。一生愛し抜こうと心に決め、結婚を決めた。

「ママ~、お兄ちゃん~、パパがまた死んでるよ!」
「あらあら、やあねえパパったら」
「いちいち騒ぐなよ直美」
「会社にお休みの電話入れないとね」
「お葬式は?」
「もうしなくていいってパパ言ってたから、大丈夫よ」

「もしもし、大鳥ですけど」
「ああ、奥さんですか。ご主人またですか?」
「ほんとに度々申し訳ありません」
作品名:DEAD END 和訳:行き止まり 作家名:ゆう