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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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受信料

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【 受信料 】

「テレビの受信料に八千円も払う人って、いるのかしら? ウチは無料にしとくわね」
 友美の言葉に、俺はちょっと不安になった。
「せめて二千円くらいにしといた方が良くないか?」
「二千円も無料も変わらないわよ」
 友美はそう言って、スマホからテレビ局にデーターを送った。

 今年から、全てのテレビ局が一括して受信料を徴収する事になった。
 払う、払わないは自由で、課徴金の額によってCMの量が決まる。
 つまり同じ番組の放送でも、それぞれの家に流れるバージョンは違うのだ。

 もしかしたら無料に登録すれば、ろくに番組もやらず、CMばかりを流されるんじゃないだろうか。
 俺はそれを危惧したのだった。
 
「大丈夫よ。町内会の木元さんだって無料にしたけどCMの量は二千円の時と変わらなかったそうよ」
 友美は俺が考えていることを察知したかのように言った。
 
 その木元さんは最近夜逃げした。
 細かい事を言う人に限って財布の底が抜けているとみえて、夜逃げの原因は取り立て。
 ギャンブルと宝くじにのめり込み、多額の借金を重ねていたようだ。

「さてと、テレビの受信料が浮いたから、今日は『スーパー・めちゃもん』でサーロインでも買ってきましょうかね」
 友美がテレビ画面を指さした。
 そこには『スーパーめちゃもん』の特売日と出ている。
 心なしかいつもより色鮮やかな宣伝だ。
 やれやれ受信料をケチったからCMにパワーがあるようだ。
 俺はため息をついた。


「ハハハ、以前と同じCM量にしたければ、受信料は四千円コースにしなけりゃね」
 会社の昼休み。コンビニ弁当を頬張りながら、同僚の田崎が力説した。
「けちって二千円コースにしなかったか? CMの量がやたら多いぞ」

「二千円でもそうなのか。うちの妻はさらにケチって無料にしていたよ」
 俺が苦笑した途端、田崎の箸が落ちた。

「無料? そりゃいけない。あれはサブリミナルCM(潜在意識を刺激する特殊なCM)が流されるんだ。奥さんが催眠に弱い人なら通販の商品を買いまくるぞ」
 俺はあわてて妻の携帯に電話したがすぐには出なかった。
 なんとなく不安を感じたが、数分後に折り返しがきた。

「ごめん、ごめん。携帯電話をお得なプランに変更していたのよ」
「テレビCMを見て、新型スマホに交換したくなったんじゃないか?」
「バカね。CMに踊らされるわけないじゃない。むしろ買うなら安い物っていう節約意識が強くなったわよ」

 力強い言葉に俺はホッとした。
 サブリミナルも堅実家の友美には効果がなかったようだ。
 とはいえ、毎日サブリミナルCMを流されれば、いつかは浪費家になるだろう。
 
 家に帰ったら、田崎の話をして二千円コースに変更させよう。
 通勤電車の中でそんなことを考えていたが甘かった。


 家の前に「即日配達・△□デパート」と書かれた車が止まっており、
大型テレビやら家具などが運び込まれており、友美がいそいそとハンコを押しまくっていた。

「お帰りなさい。今日は安い物がいっぱい見つかったのよ」
 友美が満面に笑みを浮かべて俺を迎えた。


 タダほど高い物はない!

 俺はこのことわざをしっかりと胸に刻んだ。
 

       ( おしまい )

作品名:受信料 作家名:おやまのポンポコリン