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ココロを持った人形

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「ねえ、優香」
「ん?」
「明日、一緒に病院に行こうか?」
「うん…… わたしはいいけど、カズくんが嫌がるんじゃない?」
「そんなことないよ。カズくんもお姉ちゃんに会いたがってるよ」
「……カズくんがそう言ったの?」
「ううん。でも、お母さんには分かるの」

 わたしは(嘘だ)と思ったけど、「じゃあ一緒に行く」と答えていた。
 お母さんは絶対に嘘なんかつかない。でも、世界一優しいから他の人も同じくらい優しいって思っているんだ。力いっぱい花瓶を投げつけてきたカズくんがわたしに会いたがっているなんて信じられない。


 カズくんが生まれた時、わたしは本当に嬉しかった。
 自分がお姉ちゃんになるってことはよく分かっていなかったんだけど、大好きなお母さんとお父さんがすごく喜んでいたから嬉しかったんだ。

 だけど、そんな笑顔の時間は短かったと思う。
 カズくんは身体が弱くて、生まれた時から重い心臓の病気になっていた。他にもいろんな病気にかかっているってお父さんが言っていた。
 家にいたことはほとんどなくて、ずっと病院で暮らしている。
 本当なら今年で小学一年生なんだけど、幼稚園だって行ったことがない。カズくんはお母さんとしか口をきかないから病院にも友達なんていない。
 だから、お母さんは毎日病院に行ってカズくんの世話をしている。お母さんの姿がずっと見えないとカズくんは暴れ出す。カズくんの心臓はとても弱いから暴れたりすると止まっちゃうかも知れないんだって。夜中に電話がかかってきて、お母さんが急いで病院に行ったことが何度も何度もあった。

 わたしが2年生の時の学芸会にお母さんが来てくれた時はすごく嬉しかったな。病院には翔子叔母さんが行ったんだけど、やっぱりカズくんは暴れちゃってお母さんは途中で帰っちゃった。でも、「優香はとっても上手だったよ。お人形さんみたいに可愛かった」ってお母さんが言ってくれたから すごく嬉しかったんだ。
 
 それが、わたしの一番の思い出。

作品名:ココロを持った人形 作家名:大橋零人