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偽装結婚~代理花嫁の恋~Ⅲ

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 格差婚の結末は、ハッピーエンドでは終わらない。愛があればどんなことでも乗り越えられる。大部分のカップルが希望と確信に満ちて新生活を始めるけれど、その中の実に半数以上が夢破れて結婚後数年もしない中に離婚している。―それが過酷な現実なのだ。
 たとえ夫婦といえども、いや、本来は対等でなければならない夫婦だからこそ、世間的立場や収入が違いすぎれば、すれ違いが生じて溝も深くなるのは当然の心理だ。
「何度も手放そうと思った。少なくとも努力はしたんだ。君をこのまま俺から、馬鹿げた偽装結婚から解き放って自由にしてあげなくてはと思った。好きな子だからこそ、君のためにはそうするべきだと判ってはいた。でも、できなかった」
 三鷹の辛そうな声が戦慄いた。
「自分でも嫌になるくらい君が好きだ。手放したくない」
 真摯な、どこまでも真摯な声。
「俺は君に強制はしたくない。もし、君がそれでも俺の顔を見るのも嫌ですぐに出ていきたいというのなら、止めないよ。だから、君自身が決めてくれないか。もし、俺との結婚について前向きに考えてくれるなら、君自身が今、ここで俺にキスして」
 私も、私も―彼のことを好き。
 たとえ意思と理性の力を総動員しても、今、彼の側を離れることはできそうになかった。
 せめて、契約期間が終わるまでは彼の側にいたい。偽装結婚でも構わないから、彼の妻でいたい。
 由梨亜は小さな声で言った。
「そんなに強く抱きしめられていては、身動きもできないわ」
 すっと三鷹の腕が離れ、由梨亜は自由になった。
 由梨亜は三鷹と向き合い、彼の美しい顔を見つめる。綺麗な顔。大好きな男。いつかこの男の傍から離れなければならないときが来たとしても、忘れないように心に灼きつけておけるように、由梨亜は三鷹の端正な面を記憶に刻み込んだ。
 小柄な由梨亜と三鷹では身長差がありすぎる。由梨亜は少しつま先立った。必死に自分を抑えるように、長く震える息を吐いてから、三鷹にたどたどしく口づけた。
 三鷹の腕が由梨亜の背に回り、引き寄せられる。最初は鳥が啄むような軽いキスから、徐々に深くなってゆく。
 三鷹の舌が入ってきても、今度は由梨亜も抵抗はしなかった。舌を絡め合う中に、由梨亜もまた次第に大胆になり、彼の首に両腕を巻き付けて烈しく求めた。
 二人の唾液が混じり合い、ピチャピチャと嫌らしい水音を立てるのも嫌悪感を感じない。二週間前の夜、急にキスされたときには、あれほど嫌だったのに、奇妙なことだった。
 不思議な感覚だ。閉じた瞼の向こうで極彩色の虹が揺らめいているような、幾千匹もの蝶が胎内で飛び交っているような。
 二人は流れてゆく時間さえ惜しむかのように、静かなキッチンで狂おしく唇を重ねた。