エイユウの話 ~春~
なんと、流の術師たちが導師に言われて治療しに上がってきたのである。意識があるかないかも解らないほど弱った生徒の治療など、彼らにできるはずもなく、分担するもかなり奮闘していた。
その異常事態にはその場にいた全ての術師が気付いた。会場中がざわめき始める。もちろんキースも例外ではない。
彼は医務室に目をやった。目立つ金色の髪は見つけやすいらしく、流の導師がキースのことを真正面から見ている。いつも言う事を聞かないキースへの、一種見せしめのような物である。
教員失格だろうと、キースは憎々しげに睨みつけた。しかし保険医が不在の今、彼に頼まなければ、ラジィの傷は一生残るはめになるだろう。女の子にそれは、あまりにも酷である。
両者がにらみ合う中、その氷を壊すように、鋭い声が飛んできた。
「ロウ!何してるの?」
突くような声と共に、その人物がフィールドに上がる。明の実技授業を終えた保険医が、急きょ駆けつけたのである。保険医に怒鳴られた流の導師が、渋々フィールドに足をかけた。流の導師の顔を見たラジィが、緩やかに微笑んだのにキースは気付く。暗い顔で列を外れた彼は、医務室へ向かった。
キースが医務室に着いた時、保険医がラジィを乗せた担架を押してくるところだった。彼女には珍しい、とても怖い顔をしている。ラジィを見つめたまま、彼女は判断を報告する。
「彼女を保健室へ運びます!ロウ、今後このような事は一切無いようにね!」
流の導師への叱咤のおまけまであった。前を向いた彼女はキースの存在に気付き、彼に手伝いを頼んでくる。受諾した彼は彼女に代わってラジィの乗る担架を押していった。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷