エイユウの話 ~春~
そして、この試合の勝敗は決まった。地の準導師が高らかに彼の名を叫ぶ。
「勝者、地の生者!」
途端、地の術師たちから歓声が沸きあがる。ニールはキースとは違い、多くの術者の憧れの的なのだから、それもまた一入(ひとしお)である。優雅に闘技場を去った。
ニールと入れ替わりに、流の準導師たちがラジィの槍を取りに動く。先ほども説明したが、土陣は魔力で物体を作り出すものではない。あくまで、他空間とつなげて喚起するだけだ。試合が終わったからといって、槍が消えてくれるわけもない。
出血は思うより多くて、本当に「刺さっていない分だけマシ」という程度だ。存分に傷が付いている。彼女の白い制服が、どんどん赤く染まっていのが、遠くからでも見えた。
先日のキサカの説明で出てきたが、準導師というのは八割が元心の術師である。同様に、流の準導師たちも十人中八人が心の魔術出身者だ。結界を張る程度の流の魔術は使えても、結局治癒系の魔術に関しては、相性の異なる心の魔術専攻者に扱える代物ではなくなる。そのため、準導師二人と流の生徒の半数以上が結界、フィールドの修繕に当たってしまう。
しかも流の術師たちだけでは治癒ができるレベルというものがかなり低いので、今回のラジィのような怪我は、流の導師か、または保険医に任さざるを得ない。
しかし、今回の事態は異常だった。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷