エイユウの話 ~春~
「では、地と緑の合同実践授業を始めます」
そういって、説明をしていた地の準導師が降りていく。このような説明は、使用闘技場側の準導師がすることになっているのである。
地の導師と緑の導師が、同時に紙製の箱の中に手を突っ込んだ。対戦相手は毎度くじ引きで決まる。もちろん、地の導師が選ぶのは地の術師、緑の導師が選ぶのは緑の術師だ。可哀想に、この制度のせいで格違いの対戦が頻繁に起こっている。
六、七戦が行われ、案の定格違いの対戦での怪我人が大量に出てしまった。キースもラジィも格が上なので、格違いになったとしても、大差無いかむしろずっと下になるので、そこまで不安になる事はない。
第八戦の対戦者を決めるために、両導師が箱の中に手を突っ込む。がさがさと中身をかき回して、術師名の書かれたボールを取り出した。それを高々と、晴れ渡る春の空に掲げる。
先に手を抜いたのは緑の導師だった。
「緑の術者、魔禍の喚使(まか・の・かんし)!」
こういうときは大抵そのまま呼ばれる。キサカが最初に二人の術師名だけを知っていたのは、そこに由来していた。キースがキサカを知っていたのもそれが原因なのだが、キサカは二、三回しか練習試合に出ていないので、覚えていたキースが凄いだけだ。
対戦相手が緑の最高術師と聞いて、地の術師たちがどよめく。格差がある相手と戦いたい物好きは珍しい。成績も関与するのだから、当然といえば当然だ。それでも男前のラジィは
「情けないわね。緑ではキースが一番でも、地では何番かなんて解らないじゃない」というが、キースの魔力は常人とは桁違いなので、もはや専攻枠など意味を成さなかった。地の術師たちはみんな、それが解っているのだ。
そんな中、地の導師が手を引き抜いて名前を呼ぶ。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷