エイユウの話 ~春~
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翌日。燦燦と照らす太陽の下で、ゴーン、ゴーンと鐘が鳴る。広い学校の何処にいても聞こえるようにと、とんでもない音量を奏でる低音に、中庭でうとうとしていたキサカはたたき起こされた。中庭はひらけている分だけ、鐘の音が大きく響くのだ。耳を押さえながら、キサカはあくびをした。今回彼は授業をサボっているのではなく、単純に前日同様空きコマだったというだけである。
うんと伸びをして、学校の中央に浮かぶ球体時計に目を向けた。球体時計とは、どこから見ても時計盤を正面から把握できるという優れものだ。実際は手のひらサイズなのだが、この学校では奏の導師の魔法によって、それを巨大なサイズに投影させているのである。
時計の針は十二時を少しすぎたころを指しており、それはまさに二限終了の時間と一致していた。
つまり、昼休みになったのである。
特に誰と食べる約束もしていなかったのだが、彼の足は食堂に向かっていた。中庭からまっすぐに廊下を進んで、多くの学生が昼食をとる食堂へ入る。中はごった返していて、空席探しに食券を求める列、食事を運ぶ人たちが、ぐちゃぐちゃに入り乱れていた。こんな混んでいる時間に入るのは、何日ぶりだろうと、キサカはすこし心を弾ませる。
定食を買ってから食堂内を見回してみると、一箇所だけ綺麗に空いている区域を見つけた。
「キース」
「ああ、キサカ!驚いた」
中心に座っていたのは、縁あって昨日に共に行動したキートワースだった。勿論、彼の周りが何故空いているのかなんて、不躾な質問はしない。
キサカは許可も取らずに定食をテーブルの上に置くと、どっかりとオレンジの椅子に腰をかけた。クッションが効いているため、勢いよく座ってもダメージはない。あまりにも堂々とした行動に、キースはポカンとしたが、慌てて周囲を見てから、キサカに進言した。
「あんまり僕に近づかないほうがいいよ」
金髪迫害は周囲にも及ぶ。小さいころは触れただけでバイ菌扱いを受けた事だって、キースにはある。キサカがそんなことをしないと解っていても、彼がそんな扱いを受けているのを見るのは嫌だったのだ。しかし彼は、キースの顔をじっと見て、不敵に笑う。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷