ツイン’ズ
11_天然家族
脱出ポットに追いついた俺は、ポットに足をかけてハッチを壊すと中へと入った。
「俺’逃がさんぞ!」
「はぶっ!? しつこいぞ直樹♂!」
俺は俺’に掴みかかると、そのままポットの外まで引きずり出した。ちなみに俺は高いところが大好きだ。いつか自由に空を飛ぶのが夢だった。
「放せ!!」
「本当に放してもいいのか? ここ上空だぞ」
「それは困る。だが自由にはしろ!」
「自由になんかしたら逃げられるのがオチ……」
ブースターのジェット音が止まった。まさか……俺は蒼い顔をしながら自分の足元を見ると……うひょ〜!?
「ブースターが止まってんじゃん。落ちるぞー!!」
「何ぃ〜!!」
俺は高いところが好きだ……だが落ちるのはイヤだぁ〜!!
「「わぁ〜〜〜っ!!」」
俺たちは互いに顔を見合わせながら叫んだ。もちろん相手の顔にビビったんじゃなくって、地面に落ちるからだ。
もげっ!! もうすぐ地面やないかっ!! どうする俺、どうすればいい俺? ……どうすればいい俺……俺……俺?
「俺’どうしたらいい?」
「私に聞くなっ!!」
至極もっともな答えを返されてしまった。まあ結果は見え見えだったけどね。
……ってそうじゃないだろ。このままじゃ……!?
突然上空に巨大ネットが広がり俺たちはそれに思いっきし突っ込んだ!!
ネットは俺たちが突っ込むと端と端がくっ付き俺たちを荷持つ扱いして、パラシュートを開き下へとゆっくりと落ち始めた。
……なんだかよくわからんが……助かったのか?
それにしてもこのネット、仕組みはわからないけどすっごい科学力で出来ているのは確かだな。
「科学……かがく……可……」
次の瞬間俺と俺’の声が重なった。
「玉藻先生!?」&「妖狐先生か!!」
二人とも同じよーなことを考えていたらしい。
だが、これが玉藻先生の作った発明品だとすると……俺ってまた捕まったのか!!
「は〜ははははっ、形勢逆転のような直樹♂!!」
「……くっそぉ〜」
パラシュートはふわふわと誰かんちの屋根に俺たちを降ろした。
……どうやって降りる? パラシュートはこんな近距離じゃ開かないし……この家2階建てだし……どうしろっていうんだぁ〜!?
「暴れるな直樹♂!! ネットに絡まるだろ!」
問題点がもう一つできてしまった……ネットから出る前に俺が暴れたためにネットが俺らの身体に絡みつき身動きができなくなってしまった。
「暴れてすまなかった」
「……それはいいから手を」
「手を?」
「手を退かしてくれないか?」
「うひゃ〜!?」
俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。さっきからど〜も右手に軟らかい感触があると思ったら俺’の胸か!?
俺は慌てて手を退かそうと暴れてしまった。それが新たな危機を!
「おまえはアホか?」
「すまない」
……暴れたのが逆効果となって俺と俺’の身体は完全に密着した状態で今度こそ身動き一つ全くできない状態になってしまった。
サイテーな状態だ。今俺の頭は俺’の胸にうずまっている……。誰かに助けて欲しいと思うが、誰にも見られたくない。
だが、誰にも見られないなんて不可能なことだったらしい……。
「わっ!? 何? 屋根の上が騒がしいと思ったら何あれ!?」
誰かに見られちゃった。でもこの状況では顔が見えない。俺’も同様に顔を動かすことができず相手の顔を確認できないらしい。だが……たぶん俺と同じことを思っているに違いない。あの声に聞き覚えがあるんですけど……。
俺は恥ずかしいのを捨てて助けを求めた。
「助けてくれぇ〜」
「私の胸でしゃべるな……感じるだろ……」
俺たちの声を聞いて正体がバレた。
「お兄ちゃん!? 屋根の上でネットに絡まってるのお兄ちゃんなの? よく見えないんだけどもう一人いるよね、誰なの?」
……俺んちの屋根だったのか。絶対俺は運命の女神にもてあそばれてる。
俺はこれ以上しゃべるとダメらしいのであとの受け答えは俺’がする(笑)。
「今は誰でもいいから、とにかく助けてくれ!」
「う、うん、ちょっと待ってて」
ややあって、妹がはさみと脚立を持ってきたらしい……妹曰くなので見えない私からしたら実際なにを持ってきたのかわからな。もしかしたら包丁とか間違えて持ってきてるかもしれない。うちの妹ならあり得る。
「お兄ちゃん今行くからね」
屋根に脚立をかける音がして誰かが上がってきている。そして妹が脚立を登り終えて屋根に登り私たちの横まで来た。いつ見ても可愛い妹だ。最近ショートにしたのだがそれが一段と我が妹の可愛らしさを引き出している。
「遊羅[ユラ]早く助けてくれ」
「わかった。今助けてあげるからもうひとりの人ももう少しの我慢ですっ」
……遊羅はまだ私が二人になったことを知らない。つまり私の胸に顔が乗っているという状況も把握していない……女である私の胸に顔が乗ってるって状況を……早く退かしてくれ。
ネットははさみでジョキジョキ簡単に切られていく……こんな柔なネットでよく私たちを受け止められたものだ。
ネットから、頭から私はやっと解放された。
「ぷは〜っ、息がなかなかできなくて死ぬかと思ったぁ〜」
顔を上げた直樹♂の顔を見て遊羅の口がゆっくりと大きく開かれていく。
「…………お兄ちゃんって双子だったの!?」
……それが14年間一緒に暮らしてきた家族の言うセリフか! だが、それが我が妹の魅力だから、ああもう可愛くてしょーがないぞぉ〜v
「「詳しくは家の中で話す」」
屋根から下りた私たちをある人物が出迎えた。私の母だ。
「……直樹……が二人?」
「お母さんお兄ちゃんが双子だって何で隠してたのぉ〜?」
「あら、私双子を生んだのかしら?」
おいおい、自分で生んだ子供数くらいわかるだろ。さすがは私の母親だ。
「もしかしたら生んでいたのかもしれないわね。あら、もしかしてもうひとりの直樹は女の子?」
「ええまあ」
「まあ、そうなの。ところであなたの名前はなんと言うのかしら?」
「ナオキだけど」
「まあ、まあ、それは奇遇ね。もう一人の息子も直樹って言うのよ」
……少しは疑問に思ってもいいと思うが……相変わらずどこまでも天然な母だ。
遊羅が突然私に抱きついて来た。不意打ちだ! だがすごくうれしいvv
「私お姉ちゃんがずっと欲しかったんだぁ〜」
こんな微笑ましい光景の中一人だけ怪訝そうな表情をいるのは直樹♂だ。
「母さんも遊羅も少しはこの可笑しな状況に疑問に思うとかしないのか?」
全く直樹♂の言うことは正しいが、この二人はそんなこと全く思ってないらしいぞ。
「だってお兄ちゃんとお姉ちゃんって双子なんでしょ」
「私ったらいつの間にか双子を生んでいたのね」
うちの母と妹が天然だったことにこれほどまでに感謝したことはない。
「お姉ちゃん寒いから早く家の中に入ろうよ」
私は遊羅に手を握られ玄関まで走らされた。
「ほら、直樹も寒いから家の中に入りなさい」
「俺は納得がいかんぞ」
納得はいかんが……話的にはこのほうがいいのか? わからん、双子だって思ってもらったほうが生活するうえではいいのか? 母と妹がそれで納得したならいいのか?
作品名:ツイン’ズ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)