ツイン’ズ
俺’[オレダッシュ]はすぐに起きてくれたのだが、どうもこいつも寝起きは弱いらしい。
「ふにゃ〜」
「ふにゃ〜じゃない、とにかく俺の自転車の後ろに乗れ」
そう言うと俺は俺’を近くに転がっていた無傷のジャガー、これまたミラクルなのだが――の後ろに乗せ全速力で自転車を漕いで漕いで漕ぎまくった。
人々は俺を止めようとしたが、今の俺は止めてもムダだぜ、じゃあな、あばよって感じでその場を逃げ出した。
向かう先は自宅だ。こんなの人に見られたらマジヤバイ。
知らない奴なら双子ですませられるが、知り合いが見たら……、まして家族なんかに見られたら失神して……チーン、お悔やみ申し上げます。って感じだな。
自宅に着くと玄関のドアを開け、俺’の手を引っぱって階段を駆け上り自分の部屋に飛び込んだ。
そして、部屋の鍵を掛け、カーテンを閉め……ようとしたが最初から閉まってた。俺は直射日光が苦手なのでいつも閉めてる。
とりあえず俺は俺’を座らせ、こたつの電源を入れた。これがないと俺は冬を越せない。寒がりだから。
俺はこたつに入ってぬくぬくしてふにゃ〜ってしてる俺’にビシッと指を突き刺した。
「おい、キサマなんだ、誰だ、何者だ、曲者か!!」
「ふにゃ〜」
さすが俺だ、まだ起動してないようだ。
こういう時はあれだ。俺は俺’にティーを入れてあげて差し出した。
俺’はそれを両手で受け取り、ゆっくりと口に運び、目をカッと開き言ったことがこれ。
「誰だおまえ!?」
気づくのが遅い、遅すぎる。てゆーか遅いだろ。
「それはこっちの台詞だ」
「私は時雨直樹[シグレ ナオキ]だ」
「俺も時雨直樹だ」
……いや、待てよ。今こいつ?私?って言ったぞ、やっぱ偽者か。
「今、おまえ自分のこと?私?って言っただろ、やっぱ偽もんだな」
俺’は少し考えこう言った。
「たしかに普段の私は私など言わない。俺だ」
「てゆーか、さっきからおまえ、しゃべり方が俺とびみょーに違うぞ」
「でも、私はナオキだ」
「嘘をつくな……クソォこうなったら実力行使だ」
「望むところだ」
俺は俺’に飛び掛り激しい取っ組み合いをすることになった。
奴が俺のコピーならば実力はコピーの方が下と決まってる。俺はそー思い込んでる。
しかし、それは違った。実力は五分と五分、当たり前といえば当たり前だった。
まさか俺の法則が当てはまらんとは迂闊だった、なんて別のことを考えていたのが迂闊だった。見事に俺は俺’に押し倒されてしまった。
俺は俺’を突き飛ばそうと俺’の胸の辺りを触った瞬間なんとも言えぬ感触が?
……胸、胸、胸、乳!!
思わず俺はこう叫んだ。
「女の胸ぇーーーっ!!?」
この声は道路の外まで響き渡った。よかった、家のやつらみんな外出中で。
なんて思っているヒマじゃない、なんだこれはどういうことだ。俺’も驚きの表情を浮かべている。
俺は俺’の胸を触ったまま動きを止めてしまった。
「おまえ、女だったのか?」
「そうらしい、今気づいた。それよりも手を離してくれないか?」
真っ赤な顔をした俺’を見て俺は慌てて両手を離して飛び退いた。
「すまん。それより、まぁ、そこに座れ、これはゆっくり話合う必要がある」
「……たしかに」
とりあえず、俺は台所に行き新しいティーを入れ直し持ってきてゆっくり話し合うことにした。
腕組みをして渋い顔をする二人の俺。さっぱり、どうしてこんなことになったのか?
「わからん、何でこんなことになってしまったのか」
「私は一つの仮説が浮かんだぞ」
「なんだ言ってみろ」
俺’の仮説はこうだ。
「簡単に言うとあの光る何かのせいだ」
「おまえの言いたいことはわかった。ようするにこうだな。あの何かの直撃を受けた俺は2人に分裂、しかもビックリ仰天、一人は女だよ、おいって感じだな」
「その通り」
「これからどうする」
二人の俺は黙り込んでしまった。
その時、家のチャイムが鳴り二人の沈黙はかき消された。
「俺が行く」
俺は階段を降り玄関に向かった。玄関は階段を下りてすぐの所にあり、うちの玄関は一部がガラスでできている為中からも外からも相手を確認することができる。
ドアの前に立っていたのは美咲だった。どうやらもう学校は終わってしまったらしい。
足を肩幅以上に開いて地面に立つ美咲が催促するようにドアをドンドン叩いている。
「早く開けてー」
俺は玄関に近づいたが決してドアは開けない。当たり前だ、部屋に入られたら困るだろ。
「何してるの早く開けてよ」
「ダメだ、用件ならここで聞く」
「なにそれ、いいわよじゃあ」
彼女はそう言うと姿を消した。
俺はその瞬間しまったと思った。美咲は俺とはちょー幼馴染なのでこの家のことも熟知している。つまり彼女は何をしに行ったかというとだ。俺んちの鍵の隠し場所に行って鍵を取ってくる気だ。やばい、それは困る。
俺は急いで、チェーンロックを掛ける。これでもう安心……ではなかった。
俺が一息ついていると肩を誰かか叩いた。びっくりして後ろを振り返るとそこにはなんと、美咲が!
「ふふん、ひっかかったわね」
「どこから入った?」
「二階の窓から」
あぁ、なるほどと俺は思った。俺も家の鍵を忘れた時よくやる手だ。たまにその手を使って美咲が俺の部屋に勝手に入って、俺をたたき起こすことがよくある。
……てゆーか、そのまんま俺の部屋に直に行かれなくて良かった……はぁ。
ため息をついている俺を尻目に美咲は二階に上がろうとしている。
「ま、待て」
俺は美咲の腕を掴んで彼女を上に行かせまいと試みたが紙一重で失敗。彼女は俺の手を振り払い二階に行ってしまった。
しかし、俺の部屋のドアだけは開けさせてはならない。
「待て、行くな、とりあえず危険だ」
「はぁ? さっきからなんか変よ」
ドアだけは、ドアだけは開けさせてはならない。
「ドアに鍵かけろ!」
俺は俺の部屋の中にいる俺’に向かって叫んだ。
「誰かいるの?」
「誰もいないけど」
「……怪しいぃ」
美咲は俺の部屋のドアに手をかけたが開かない。あたりまえだ、鍵がかかってる。
しかし、美咲は不適な笑みを俺になげかけた。まさか!
「ふふん、こんな鍵すぐに開いちゃうんだから」
そう言いながら美咲は自分のバックから財布を取り出すと、1円玉を手に取った。
「ま、待て、汚いぞ」
俺の部屋のドアは1円玉を使うとすぐに開いてしまうのだ。ちなみにマイナスドライバーでも可だ。
俺は必死で美咲を止めようと頑張ったのだが、美咲は俺の耳に熱い吐息を吹きかけてきた。
「あぁん」
思わず俺は色っぽい声を出してしまい、床にヘナヘナ〜と倒れ込んでしまった。俺の耳は人より敏感だ。特に右耳。
その隙をついて美咲はドアを開けてしまった。
「……誰もいないじゃない」
「あたりまえだろ」
この時の俺の顔は完全に引きつっていた。誰もいないのに鍵が勝手に掛かるわけないだろ。
「怪しぃ〜」
美咲はそう言うと俺の部屋のガサいれをしようとした。俺は必死だ、彼女を止めなくては……!
「やめろ、プライバシーの侵害だぞ」
「エロ本が出てきたぐらいじゃ驚かないわよ」
作品名:ツイン’ズ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)