ツイン’ズ
俺は愛の突然の質問にちょっとビックリ仰天した。
「さぁあ? 気付いたら一緒にいた」
俺は正直に答えた。『気付いたら一緒にいた』、そう、気付いたらいつの間にか一緒にいた。
最初に俺が愛と出合ったのは入学式の時だった、入学式でも愛はすっげー目立ってたというより浮いてた。この学校って制服着用のはずなのに何故か愛はゴスロリだった。正直愛の第一印象は『何だコイツ』だった。
「直樹は私の事どう思う?」
「はぁ!?」
何かこの雰囲気変だぞ。
「高校入るまで友達なんて呼べる奴いなかったから、みんな私に頭下げて、持てはやして自分より下だったと思う。別に私はあの家に生まれたくて生まれたわけじゃないのに……」
ちょっと俺の想像してた雰囲気とは違うがこれはこれで重い……。
「最初会った時は『何だコイツ』って正直思ったけど、付き合ってみると案外普通でいい奴だった」
「……そうか」
愛の顔が少しほころんだ。
程なくして俺の自転車が置いてある場所まで付いた。
「後ろ乗っていいか?」
「でも、リムジンとか呼べば?」
「駄目か?」
「別にいいけど」
愛が自転車の後ろに乗せてくれなんて初めてのことだったから正直驚いた。だって、電話一本でリムジンかヘリが直ぐ来るのに俺の自転車の荷台に乗せてくれって。普段一緒に帰る時はリムジンとかは呼ばないまでも途中までは歩いて行くでしょっていうか、ゴスロリ服に自転車の荷台は似合わないでしょっていうか……俺かなり取り乱してないか?
俺が自転車にまたぐと愛は自転車の荷台に横に腰掛けた。
「しっかり掴まって」
「掴まってって何にだ?」
「俺でも何でも」
愛の両腕が俺の腰に回った。そして、愛の頭が背中に当たったのが分かった。
「これでいいか、自転車の後ろに乗るのはこれが初めてだからな」
「じゃあ行くぞしっかり掴まってろ」
俺はゆっくり丁重にペダルを漕いだ。荷台って案外お尻とかが痛くて、しかもまたいで乗るならまだいいけど横に座られるとバランスが悪い、つまり今の状況はかなり悪い。俺は思わず『またいで乗ってくんない』と言いたかったが愛にはこっちの乗り方の方が絵的にいいと俺的に思ったから言わなかった。てゆーか、後ろに立ってもらうのが一番漕ぐ方としてはいいんだけど。
学校を出ると目の前には坂道が存在する、後ろに人を乗せて上るのは不可能だ。だが俺は突き進んだ。だが、かなりキツイ、坂の中腹まではまだ良かった、が後半戦が辛い、人を後ろに乗せている上に立ち漕ぎもできない。てゆーか普段はここの坂自転車降りて登ってんだよって感じで死ぬかと思った。
「だいじょぶか、降りるか?」
「はぁ、はぁ…大丈夫…心配ない……」
明らかに俺が嘘を言っていうのは明白だった。
だが、ついに俺は坂を登り切った。足はパンパンだが爽快感が吹き荒れる。32.195キロメートルなんて目じゃないねって感じだけど、実際はあっちの方が辛いと思う。
あとの道は楽だった、ファミレスまで直ぐについた。
ファミレスの自転車置き場に自転車を置いた時の俺の体力は正直限界だった。この時、俺が言える最後の遺言に近い言葉は、
「早く中入ろ」
だった。
店内の中はいつもより混雑していた。なぜって学生が、うちの学校の生徒が学校早く終わったからってこんなとこで溜まりやがって……まぁ人のこと言えないけどな。
俺らは直ぐに席に付くことができた。結構混雑してるのに待たされなかったのはラッキーかそれとも何かの力が働いたためか……? 力についてはあえて詳しく言わない。所詮俺は一般人さ。
席に付いた俺は直ぐに呼び出しボタンを押した、メニューは頭の中に入っているのですぐに決まる。
すぐにウェイトレスが来た。この人とは結構顔馴染みっていうか、ここで働いている人とはシェフ以外は顔馴染みだと思う。
「今日は何にするの?」
ウェイトレスは俺らには他の客より気さくに声を掛ける。
「私はいつもの」
「俺はナポリタンといつもの」
「わかりました」
ウェイトレスは軽く頭を下げて直ぐに厨房に行った(たぶん厨房、そこまで詳しく知らないからな)。ウェイトレスはあえてメニューを繰り返したりはしない、いつものとナポリタンじゃそんなことする必要もないのだろう。
「愛はなに飲む?」
「オレンジジュース」
「わかった」
俺は席を立ちドリンクバーに飲み物を取りに行った。
紅茶好きの俺だがあえてファミレスでは飲まない。なぜって?……ファミレスって言ったらこれでしょ。
俺はグラスと取ると、メロンソーダをグラスの1/3に入れ、ホワイトソーダを少しにオレンジジュースも入れてみた。俺はファミレスに来るといつもこれをやる、つまり色んな飲み物をミックスするってこと。
俺はストローを取りグラスに挿しカウンターの上にジュースを入れたグラスを置いておく、次にもう一個グラスを取って今度は氷を入れてからオレンジジュースを入れてストローを突き刺す。はいこれで完了、俺は二つのグラスを持って席に戻った。
席に戻ると料理がすでに運ばれていた。普通ならこの速さはありえない、きっと何かの力が働いたに違いない。だが、俺は深くは考えない、きっと真実を知ってしまったら暗殺されるかもしれない。
「はい、オレンジジュース」
愛はオレンジジュースを受け取ると直ぐにストローに口を付けた。実は俺は唇フェチだったりする。
俺は席に付き料理に手を付けた。
テーブルの上には山のような料理が置いてある。これが俺と愛のいつものだったりする。
俺が頼んだのは、飲み物とナポリタンスパゲッティー・カルボナーラスパゲッティー・ガーリックトースト・シーフードサラダ・ソーセージピザ・チョコレートケーキ・ミルフィーユ、まぁ今日はこれでも少ない方だ。
マナが頼んだのはデザート全種と飲み物……これには大食いの俺もビックリする、てゆーかどこにいってるんだカロリーは? スタイル良すぎだぞ愛。
もくもく食べ続ける俺に愛が声を掛けてきた。
「直樹は私のこと好きか?」
「はぶっ!!」
……スパゲッティーが鼻から出かかった。
「好きって何が!?」
「私は直樹のこと嫌いじゃない」
「はぁ!?」
俺の頭は混乱するばかりだ。○ダパニ、メ○パニ、メダ○ニ、メダパ○。って感じ。
「部活に最近顔を見せないがどうしたんだ?」
部活っていうのはポプソン部(ポピュラーソング部)のことで愛と俺はその部活に所属している。
「最近は、ちょっと忙しくて出てなかったな」
「昨日は部会するから来いって行言ったろ?」
「あぁ、昨日は……」
昨日はいろいろあって学校を休むハメになった。部会のことなんかホントにすっかり忘れてた。忘却の彼方って感じだった。
「ごめん、マジで忘れてた。昨日はいろいろあって」
「もう、一人のナオキとか言ってたな」
「そう、そうなんだ、その俺’が!!」
「俺’?」
「もうひとりのナオキのこと。そいつがさぁ」
俺は突然水を得た魚のようにしゃべりだした。
が俺がこれから、エンジン全壊で飛ばして行くよってときに邪魔が入った。
「はははは〜っ、直樹♂、今朝の決着をつけようではないか!!」
外から店内にスピーカーの音が鳴り響く。
作品名:ツイン’ズ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)