アーク_1-2
「魔法少女の乗り物は、重力の魔法で動いているんですよ。周囲に弱い斥力場を形成して、風を遮っているんです。だから、中心にいる僕たちは、風をほとんど感じないんです」
どうやらパラスは技術オタクの気があるらしい。
「でもさすがに外気温を完全に遮断はできませんから、寒くなったら魔法少女の制服を着るといいですよ。あれには温度を一定に保つ機能がありますからね」
「へー」気のない声で返事をした。「そうなの」
「……どうしてベルさんは着ていないんですか?」
パラスは無邪気にクリッと首をかしげた。
「そんな話、ひとっっことも聞いてないけど」
「ええっ! 制服もらってないんですか? 魔法少女全員に必ず支給されるはずなんですけど……」
「あンのババア! 適当やりやがって!」
「ひぃっ、ベルさん怖い……」
ベルが怒鳴ると、パラスはまた目に涙を溜めた。
「あんな変態めいたモン、どうせ着ないから別にいいけどさァ。あたしにだけ寄越さないってのは気分が悪いわよねぇ」
「き、きっと何か理由があったんですよぅ」
「理由って言ったって――」
「あ! あれあれ!」無理やり話を終わらせて、パラスは遠くの空を指差した。「他の魔法少女たちですよ!」
「あン? 他の魔法少女だぁ?」
パラスの指差した先の空に、豆粒みたりな黒い影がいくつか浮かんでいる。一見、ただの鳥の群れのようにも見えるのだが。
「やはり魔法少女ですね。ホーキに乗っていますから」
フリルのついたピンク色のツーピース、胸元には赤いリボンをあしらい、手首には暑苦しいくらいのシュシュ、そして空飛ぶホーキに乗っている珍妙な輩とくれば、件の魔法少女以外の何者でもあるまい。年のころは9~10歳くらいだろうか。そのくらいの少女に仕事をさせるなんて、存外、天使もシビアである。労働基準法に引っかからないのだろうか。
「あー、あれが。あの子たちも大変ねぇ、おばさんの変態趣味に付き合わされてさァ。っていうかさ、ホーキで空飛ぶって、魔法少女じゃなくて魔女っ子よね」
「はぁ」
「あの子ら、集まって何してんの?」
「魔法少女も、任務内容によって執務形態が違うのです。見たところ彼女らはまだ幼いので、指導員がついて、集団で任務を行うんでしょう」
輪を作ってそぞろ飛ぶ姿は、任務というより遠足のほうが近い。
「まるで幼稚園ね」
少女達は、ピーチクパーチクとやかましく騒ぎながら、集団で何処かへ飛び去ってしまった。
ベルはなんとなく、彼女達とは別の方向へソージキを向けた。
「さぁ、任務にもどりましょう!」
パラスは元気よく言って、進路を羽で示した。その方角とは全く逆の方向へ、ホーキはすべるように飛んだ。
「ど、どこ行くんですか?」
「あれ! ウワサのなんとかの泉じゃない? 見て行きましょうよ!」
「ちょっと、ベルさん? ベルさんってば~!」
またもや涙目になってしまったパラスの叫びが、青い空に木霊した。