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アルキュオネ

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「飼われているのかしら?」

「どうしてそう思うんだい」

「だって、ここに来るのはあなただけだもの」

「そんなことはないよ」

 胸の前に捧げられた、魔法のステッキみたいなポップキャンディ。すん、と鼻を鳴らして、そのミントの香りを胸いっぱいに取り込んでみる。
 ふと思い出すのは、林檎売りの老婆の話。
 ふと思い出すのは、森の奥のお菓子の家。

「あなたは良い魔法使い? それとも悪い魔法使い?」

 指先が触れないままにそれを受け取って、落としてしまわないように両手で、まるで一輪の花のように夜着の胸元に抱えて。
 けれど彼はその黄水晶を傾げて、猫撫で声で歌うのだ。

「僕はいい魔法使いだよ」

 そう、御伽話染みた幼い質問にも、あなたは笑い飛ばすことなく応えてくれる。
 その台詞に、心の底から穏やかになる。


 けれど私には分かっている。
 本当は、本当がどちらでも構わない。たとえ言葉通りに良い魔法使いでも、たとえ欺いた通りに悪い獣だとしても。本当は、魔法の力さえ持たない誰かだとしても。
 私には関係のないことなのだ。
 ただ、あなたがあなたでいる限りは、この安っぽい寝巻さえ絹のドレスになる。
 あなたが帰ってしまった窓辺で初めてキャンディを舐める。口の中に広がるハーブの芳香と、仄かな苦味。それはさっき嗅いだ香りと同じで、やっぱり私には勿体ないものなのだとはっきりと想う。

作品名:アルキュオネ 作家名:篠宮あさと