小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

レッツ褌

INDEX|3ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

太郎? 初めて聞く名前だとジャックは、はっとした。誰だ?
「それがな、あいつ駄目な野郎で、結局、日本に舞い戻って来てしまっんだ。百合ちゃんのまねして留学しようと無理しちゃってよ。だが、あいつに外国暮らしなんてできっこなかったんだよ」
「じゃあ、ここに戻ってきているってこと」
そう言う百合子の口調と表情を見ると、何だかいわくがありそうだ。
「ああ、百合ちゃんが戻ってきたことも知ってるよ。だけどな、あいつ、恥ずかしくて会いたくないそうなんだ。何たって、百合ちゃんが、こんないい旦那を連れて帰ってきたんだもんな。会わす顔がねえよな」
その時、ガラーと戸が開く音がした。
「はら、噂をすればだ」と源が言った。
「太郎君、お久しぶり」と百合子が声をかけた。目の前には、百合子と同じ歳ぐらいの若い青年が立っている。いかにも地元の若者という感じのあどけない顔付きの男だ。その顔は源という男にそっくりだ。つまりは息子ということか。背は百合子と同じぐらいで低い方だ。だが、体格はがっしりとしている。
「久しぶり、百合子ちゃん」と太郎は返す。いかにも親しそうだ。太郎はジャックを見つめ、
「この人が百合子ちゃんの旦那さん」
「ええ、そうよ。ジャックというの」
太郎はかたい表情で見つめる。ジャックは、にっこりして「はじめまして」と一言。本来なら「お噂はかねがね」と言いたいところだが、全くの初耳の人物だ。なぜ、百合子は、この男のことを今まで話してくれなかったのか。その理由は、この男の表情と、この後に取る行動で読めた。

「百合子ちゃん、これどういうつもりだよ。俺に、これ以上みじめな思いをさせたいのか。大和撫子なのに、どうして、こんなガイジンなんかと結婚したんだ」
「太郎君」と百合子のすまなそうな表情。
「太郎、みっともねえぞ。仕方ねえだろう。百合ちゃんはな、このガイジンさんにいかれちゃったのさ。そういうもんなんだよ。おまえも少しは大人になれ」と源。太郎の目から涙がぼろぼろこぼれはじめた。
「おい、日本男児のくせにみっともねえぞ」と源が怒鳴り声を上げる。太郎は、即座にその場から離れ、走り去った。
百合子は、走り去るのを見ながら同じく涙をこぼす。
「どうしたんだよ、ユリ」とジャック。
「ハ、ハ、ハ、ジャックさん、あんたは大和撫子と日本男児、どっちも泣かすとは、たいした野郎だね」と源。むっとする言葉だ。
「行きましょう」と百合子は、ジャックの腕を取って、店を出ていった。しばらく歩き、暗くなった海岸に辿り着いた。
「事情を話してくれるよね、どういうことなのか」とジャック。
百合子は話した。
太郎とは、同じ町で育った幼馴染みだ。太郎は源という漁師であり、また「日本男児」という食堂を経営する男の息子である。子供の頃から、二人は大人になったら結婚しようと約束していた。だが、百合子が、たまたま、高校の英語スピーチコンテストで最優秀の賞を貰い、カナダへの留学奨学金を受けたため、カナダに大学留学をすると決意。そのことで事情が変わった。高校を卒業したら大学に行くつもりだった。だが、日本の大学に行くのでは、学費がかかり、かえってお金がかかる。奨学金だとただであるし、外国の大学を出て英語が喋れるようになるのなら、自分の人生のためにも有益だと思ったのだ。卒業するまでの間、離れることになるけど我慢して、と太郎に告げてカナダに渡った。
 だが、そのカナダでジャックと出会い、恋に落ち結婚。百合子が結婚後、日本に帰りたくなかった理由の一つに実をいうと太郎の存在があったのだ。
 太郎は、百合子がカナダで結婚をしたことを知って、すごいショックを受けたそうだ。カナダに行って、百合子を奪い返そうとさえ思ったらしいのだが、ジャック相手にもの申すためには英語ができないといけないと考えた。英語を勉強する決心をしたのだが、太郎は英語が大の苦手であった。なので、百合子やジャックに負けないほどに英語ができるようになるため自分でお金を貯め、1年前イギリスへ語学留学をしにいったと聞いた。だが、どうやら帰ってきたということ、そして、惨めたらしい再会をすることに。
「ごめんなさい、話してなくて」
「いや、いいよ。話しにくかったのは分かるから」

ジャックは思った。こりゃ、やっかいだなあ。何とか、あの太郎とは、この町にいる間、顔を合わさないようにするか。

ジャックは海水浴がしたくなった。日本の夏は暑い。ただ暑いだけではなくカナダと違い、湿気が強いのだ。だから、汗だくだくとなる。部屋でクーラーをがんがんに入れて過ごすのもいいが、スポーツが好きなジャックにとっては、家の中でじっとしているのは我慢できない。翻訳の仕事が一通り終わり、どうしても外に出たくなった。

百合子は海水浴を薦めた。ジャックにとっては海水浴は生まれて初めての体験になる。なぜなら、ジャックが住んでいたモントリオールもトロントも海はない。湖や川はあるのだが、そこで泳ぐということはあまりしない。泳ぐといえばプールだ。

海岸の町に来たのだから、海水浴も悪くないと思った。日本人にとって海水浴は、高温多湿気候のむさ苦しさから逃れるためにあるように思える。

だが、問題があった。ラテックス・アレルギーだ。海水パンツを買って着てみたが、すぐにアレルギーの症状がウエスト辺りに出てきた。これでは駄目だ。ゴムのない海水浴着はないものか。となると、褌? だが、下着として身につけている褌は、海水浴に合うとは思えない。水の中に入るとゆるゆるだ。特に長い前垂れが波にさらわれやすい。

だが、ゴムの入った今の海水パンツを着る前に日本人は、どんなものを着て海水浴をしていたのか興味を持った。それ用の褌があったのではないか。ネットで調べてみると、思った通りであった。同じ褌でも種類は違うが「六尺褌」といわれるもの。長い布を股と腰に巻き付けるように身につけるらしい。身につけ方は、長細い布を股の間に通して、布をねじり細いロープのようにして背中の尻の割れ目の上辺りで曲げる。そして、またねじりながら、ウェストを一周して、尻の割れ目の上当たりに戻すと、そこで交差する形に結びつける。まるで、折り紙や風呂敷包みの技を応用したような身につけ方だ。



ジャックは、呉服屋に行き、六尺褌が欲しいと伝えると、呉服屋の店主は、ロール上に巻かれた長い黒布を取りだし3メートルほどで切って渡した。
「今時、こんなものを身につける人はいないけどね」と店主は言った。

ネットで見つけた六尺褌の付け方を真似、つけてみた。四苦八苦の末、何とか身につけられた。パンツのように足首から上げて履くのと違い、布を自分の体に合わせ巻き付け、体から離れないように締め込むのは実に面倒な作業だ。自分の体に密着したつけ方が分かるのに30分を要した。

着てみると、明らかに海水パンツとは感覚が違う。尻がむき出しになった状態で、股から尻の割れ目に沿うように布がぴったりと張り付く。というか、布が尻の割れ目に食い込んだ形だ。それが何とも言えない感覚を与える。不快といえば不快だ。
作品名:レッツ褌 作家名:かいかた・まさし