失われた小銭への怒り
しゃべるのが面倒になったのか。大男はオレのポケットに手を突っ込んで500円玉をとってしまった。大の男同士が何をしてるんだ。と、オレの理性がそう言っている。しかし、うまく声帯には伝わらなかったようで、
「返せ~」と、歩き出した大男に向かって叫んでいた。
「返せ~」と、小男が離れた場所で叫んでいる。
「返せ~」と、少し小さな声。
「返せ~」と、かなり小さい声。
「返せ~」と、蚊のなくような声。
「返せ~」と、心の声。
おしまい
作品名:失われた小銭への怒り 作家名:伊達梁川