失われた小銭への怒り
失われた小銭への怒り
明日給料日なのにまだ1万円がサイフに残っているのは、梅雨のせいで2週連続休日に家に閉じこもって過ごしたせいだった。パチンコで儲けてみようかなどという思いが浮かんだのは、脳にカビが生えたせいかもしれない。こんな余裕で行けばパチンコも、きっといい結果があらわれると、頭の中には分厚くなったサイフの映像が浮かんでいた。
◇ ◇ ◇
そう思い通りには行かないのが、博奕。結果をなぜ想像出来なかったのだろうと自分を叱り、何という愚かなことと、オレはとぼとぼとアパートに帰るべく駅に向かっていた。文字通りにスッカラカンになったサイフ。小銭まで投資してしまった。
ああ、お腹が空いた。昼食抜きで頑張ってしまったパチンコ。夕食は何にしようかと考えた時に、重大なことに気付いた。いつもは何かしらある食材。雨のせいで買い出しに行かずにいたので、まったく何も無い。どうするんだ夕食、と見つかる筈の無いだろうポケットの中を全部調べた。やっぱり無い、何度も開けてみたサイフにも10円玉と1円玉数枚。
さらに肩を落とし、下を向いてとぼとぼと歩いた夕暮れの薄暗さが、惨めさを増加させている。
ああ、1万円あったら、スーパーでかなりの食材が買えたのに。ああ、悔しい。ああ、オレの馬鹿と頭の中で反省会が開かれているようだ。
おや? 丸くて光を反射するコインが落ちている。100円玉か? まだパチンコ店からあまり離れてはいない。人通りもある。ここは自分が落としたコインを堂々と拾うのだ。と、一瞬のうちにそう判断したオレはさりげなく拾ってすぐにポケットに入れた。それは500円玉だった。お握り1コの予定から、少しだけグレードアップした夕食が食べられる。と、暗かった心に小さな灯がともった。
作品名:失われた小銭への怒り 作家名:伊達梁川