「秘事は冬の真夜中」~天使の羽のヴァニス / 野原の書より
「だから、今夜でお別れ・・・」
戦によって止まっていたヴァニラ・フィールズの季節。
しかし、それはヴァニス達の手によって、本来あるべき形へと取り戻されつつありました。
少しずつですが、再び淀む事の無い時が流れ始めたのです。
やりきれない思いにも、ケリダの言葉通りにするしかないディディカ。
「そうか、ついに今夜でお別れなんだね・・・」
「そう、朝が来て陽が昇ったら、私は消えてしまう。醜く溶けて行く私の姿を、貴方には見せたくないの。だから、夜明けが来る前に、私の前から居なくなって。」
僅かの沈黙を引きずりながら、それでも、最後に力を振り絞ってディディカは言葉を繋ぎます。
「うん、わかった。そうだな、ケリダ。最後に、最後にあの詩を歌ってくれないか・・・」
そのディディカの言葉に、ケリダは遠く樹氷の森を横切る月に向かって静かに歌います。
作品名:「秘事は冬の真夜中」~天使の羽のヴァニス / 野原の書より 作家名:ヴェリール