小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

「レイコの青春」 34~36

INDEX|9ページ/9ページ|

前のページ
 


 「二人目は?」

 「あんたねぇ・・・
 私のプライバシーが、ボロボロになるまで全部詳しく聞きたいわけなの?
 私がしゃべると言い始めたんだから、それもまた仕方がないことか。
 まぁ・・・そんなこともあったけど、
 二度目はそんなことには、絶対にならないようにと、
 上手く男を見つけて、二度目の所帯を持ったけど、
 結果は、似たかよったかで、また同じ事の繰り返しだった。
 それが綾乃の父親よ。
 どう、これでいい?
 もう、気が済んだでしょう。」


 口惜しそうに、苦笑いをしながら、
美千子が指先で、左右の目尻をぬぐいました。


 「そうじゃないのよ・・・
 私が本当に聴いてほしいのは、それから先の話なの。
 これからが、本題なのよ、レイコ。
 翔太の時もそうだったけど、
 綾乃の時には、もう、私の子育ての悩みは限界だった。
 それでも私は、自分に渇を入れながらひたすら必死に働いて、
 子育てをしていくつもりではいたの。
 すくなくとも、なでしこの園長先生と出会う前までは、
 自分でも、そう思い込んでいた。
 いいえ、そう言い聞かせながら働き続けてきた。」



 短いため息を漏らした美千子が、両肩を緩めます。
膝に置いたノートの上では、細く白い指が上下に動いて、
そっと組み替えられます。
美千子の視線がレイコの顔からは、離れました。
部屋の壁をなぞり、さらに窓の外へ抜け、
やがて遠い彼方を見つめはじめました。


 「綾乃が亡くなってから今日までずっと、
 やはり、私は産むべきじゃなかったと後悔をしつづけていた。
 翔太の時もそうだったけれど・・・。
 綾乃の時にはもう、自分で育てられるという自信が、
 実はまったく無かったの。
 もともと私は、平凡な奥さんになることだけを夢に見て生きてきた。
 勤め人と結婚をして、家で子育てをするという
 ありきたりの生き方と暮らしをするということが、
 わたしの人生の夢だった。
 事業家の家に生まれて、父と母の苦労する姿を見ていたころから
 自然に、そんな考え方が身についてきたのだと思う。 
 たぶん、そうなるはずだったのに。」


 「山の手のお嬢さんだったもんね、あの頃の、美千子は。」


 「今度は、なでしこの園長先生に頼りっきりで
 ほとんど、子供を預けっぱなしにしたまま仲町で働らき続けた。
 たまの休日にも、ただ家の中で子供たちと
 ぼんやりと、何もする気が無くて過ごしているだけだった。
 そんな日々ばっかりが延々と続いていたの。
 でも、私の心の中ではいつだって、何かが違う、何かが違うって、
 ず~と、悲鳴をあげつづけていた。」


 「どうして・・・
 美千子は、女手一つでちゃんと頑張っているじゃないの。
 それは、わたしにもよく解る。」


 「そうじゃないのよ、レイコ。
 わたしが甘え過ぎたために、園長先生まで、
 もしかしたら、追い詰めてしまったのかもしれないのよ。
 そんな気が、今でもするの。」

 「美千子・・・」

(37)へつづく