「レイコの青春」 34~36
「二人目は?」
「あんたねぇ・・・
私のプライバシーが、ボロボロになるまで全部詳しく聞きたいわけなの?
私がしゃべると言い始めたんだから、それもまた仕方がないことか。
まぁ・・・そんなこともあったけど、
二度目はそんなことには、絶対にならないようにと、
上手く男を見つけて、二度目の所帯を持ったけど、
結果は、似たかよったかで、また同じ事の繰り返しだった。
それが綾乃の父親よ。
どう、これでいい?
もう、気が済んだでしょう。」
口惜しそうに、苦笑いをしながら、
美千子が指先で、左右の目尻をぬぐいました。
「そうじゃないのよ・・・
私が本当に聴いてほしいのは、それから先の話なの。
これからが、本題なのよ、レイコ。
翔太の時もそうだったけど、
綾乃の時には、もう、私の子育ての悩みは限界だった。
それでも私は、自分に渇を入れながらひたすら必死に働いて、
子育てをしていくつもりではいたの。
すくなくとも、なでしこの園長先生と出会う前までは、
自分でも、そう思い込んでいた。
いいえ、そう言い聞かせながら働き続けてきた。」
短いため息を漏らした美千子が、両肩を緩めます。
膝に置いたノートの上では、細く白い指が上下に動いて、
そっと組み替えられます。
美千子の視線がレイコの顔からは、離れました。
部屋の壁をなぞり、さらに窓の外へ抜け、
やがて遠い彼方を見つめはじめました。
「綾乃が亡くなってから今日までずっと、
やはり、私は産むべきじゃなかったと後悔をしつづけていた。
翔太の時もそうだったけれど・・・。
綾乃の時にはもう、自分で育てられるという自信が、
実はまったく無かったの。
もともと私は、平凡な奥さんになることだけを夢に見て生きてきた。
勤め人と結婚をして、家で子育てをするという
ありきたりの生き方と暮らしをするということが、
わたしの人生の夢だった。
事業家の家に生まれて、父と母の苦労する姿を見ていたころから
自然に、そんな考え方が身についてきたのだと思う。
たぶん、そうなるはずだったのに。」
「山の手のお嬢さんだったもんね、あの頃の、美千子は。」
「今度は、なでしこの園長先生に頼りっきりで
ほとんど、子供を預けっぱなしにしたまま仲町で働らき続けた。
たまの休日にも、ただ家の中で子供たちと
ぼんやりと、何もする気が無くて過ごしているだけだった。
そんな日々ばっかりが延々と続いていたの。
でも、私の心の中ではいつだって、何かが違う、何かが違うって、
ず~と、悲鳴をあげつづけていた。」
「どうして・・・
美千子は、女手一つでちゃんと頑張っているじゃないの。
それは、わたしにもよく解る。」
「そうじゃないのよ、レイコ。
わたしが甘え過ぎたために、園長先生まで、
もしかしたら、追い詰めてしまったのかもしれないのよ。
そんな気が、今でもするの。」
「美千子・・・」
(37)へつづく
作品名:「レイコの青春」 34~36 作家名:落合順平