「レイコの青春」 34~36
「でもさ、たしかに辛いけど、
美千子には、全部を知らせるべきだと思う。
いまだに立ち直れていないのは、
綾乃ちゃんの、亡くなってしまった時のいきさつが
全く見えていないと言うことが、きっとあるのだと思う。
親として知っておきたい一切の経過が、いまだに闇の中だもの、
たぶん、やりきれない思いが今もあると思う。
母にだって、自分で言いきっているように落ち度は、
確かにあったのだもの。
突然死の知識すらなかった自分を、
あれほど後悔をしているくらいだもの・・・・
自ら、保育者失格と書いたらいだから、
もしかしたら母の心にも、「助けられたかもしれない」という、
重い自責の気持ちが、亡くなる寸前まで確かに有ったのだと思う。
最初に綾乃ちゃんのうつぶせ寝を見た瞬間に、
戻してあげていれば、助かっていた可能性はあると、
私も、そういう風に考えている。」
「幸子!」
「美千子は、全部知るべきだと思う。
母の見落としも含めて、あらいざらいを知ってほしい。
綾乃ちゃんがぐったりしている時から、病院へ搬送されて、
美千子が到着する前に、亡くなってしまった綾乃ちゃんのすべてを、
隠さずに全部伝えてあげるのも、残された私の責任だと考えた。
それができるのは、このノート以外にないと思う。
お願いレイコ、辛い役目を引き受けて。」
「そうしていいの?それでもいいの?
幸子も、園長先生も・・・」
「なでしこは、これから先もいろんな物を乗り越えて、
前に進まなければいけないと、私は考えています。
突然死とはいえ、園児がひとり亡くなってしまったということは
隠しようのない事実だし、
今だって頻繁にはっとするような見落としや、
保育事故寸前の不手際は日常的に、たくさんある。
だからこそ、母はたくさんの園児たちの些細な記録を、
山ほど残してくれたのだと思う。
もっといい保育園をつくるために、もっといい保育者になりなさいって。
母は、ひたすら事実だけを冷静に書き留めてきたのだと思う。
私も、美千子には事実だけを伝えたいの。
そして、それは亡くなった母もたぶん・・・
同じ思いだと、私は思う。」
作品名:「レイコの青春」 34~36 作家名:落合順平