「レイコの青春」 34~36
残った園児の父兄からも、認可保育園の建設は
「まだ、時期尚早ではないのか。」、
「すこし、ほとぼりを冷ましてから・・」
などという、消極論が出始めました。
それでも状況の打開のために、陽子と靖子がコンビを組んで
全体集会の開催のための、粘り強い説得行動がはじまりました。
父兄たちを戸別に訪ねての、地道な話し合いの日々がつづきます
それらがようやく功を奏しました。
園長先生の葬儀から2カ月ほど経った今日、ようやく、
全体集会が開けることになりました。
しかしこの時点で、募金活動をはじめとした、
あらゆる資金調達のための取り組みが、暗礁に乗り上げたままで、
すでに完全にストップをしていました。
目標金額の約4割、1600万に届いたところでぴたりと止まったままです。
全体集会では、不足した分の資金繰りについての懸念と、
質問が相次いで出されます。
結局、会議は行き詰まり、議論そのものも止まってしまいました。
2400万の資金不足という現実の重さが、それ以降の議事の進行までも、
止める形になってしまいました。
結局、建設をめざすための代表、10名だけが選出をされます。
あたらしい総会の準備のために『建設準備委員会』だけがつくられました。
資金繰りのめどがついた時点で、全体集会も建設を承認をするという
条件をつけて、この日の全体会議が終了をします。
会議の終了後、幸子がレイコを呼びとめました。
幸子が手にしているのは、園長先生がレイコに託したもので、
綾乃ちゃんの事故のことが詳細にしるされていたあの一連のノートです。
「これはやっぱり・・・
美千子に届けてあげたいと思うんだけど、
レイコなら、どうする? あなたはどう思う?。」
「幸子がいいというのなら、私は、賛成する。
けど・・・。」
「けど・・?」
「立ち直りきれていない美千子には、まだ・・・・辛すぎると思う。
忘れる努力をしているのに、逆効果にならないかしら。
詳細な記録すぎるんだもの、園長先生の記録って。
私も、(少しだけ)目は通したけど・・・」
「誰にも見せないはずの、
母の本音が、書きとめてある資料だもの、確かにそれはある。
私も初めて読んだ時は、びっくりしたもの。
細かい時間の経過を追いながら
ほんの些細な医師や、看護婦さんたちの会話まで書き留めているし
綾乃ちゃんの刻々とした容態の変化まで、これだけ克明に
書き留めておいたんだもの。
あの騒動のなかで、よくこれだけ残したものだと
私も、つくづく感心した。」
レイコの手元へ、ノートを手渡しながら、
強い口調で、幸子がレイコの目を見てさらに言葉をつづけます。
作品名:「レイコの青春」 34~36 作家名:落合順平