夜が一番短い日
6月21日夏至の日 1年の中で一番夜が短い日だ。
時計の針は午前1時を過ぎていた。
夏空の蒸し暑い昼間から解放された義男と洋子は、エアコンが効いたホテルのベッドで戯れていた。イタリアン食堂で飲んだワイン2本でかなりいい調子に二人とも酔っていた。
ベッドの脇の床には脱ぎ散らかした服や下着が散らばり、お互い剥ぎ取る様に脱がせた様子が伺い知れた。天井いっぱいの鏡の横のスピーカーからは甘いラブソングが流れている。ムードのある照明に写し出された二人の絡まる肢体はベッド横の大きな鏡にも映し出されていた。
「どこでもいいよ」と言った洋子の言葉に義男は、イタリアン食堂の前に止まったタクシーの後部座席の奥に洋子を押し込むと「一番近いラブホテルへ」と運転手に告げたのだ。
義男のリズムに揺られて洋子の唇から切ない吐息が漏れる。すでに40歳を過ぎた大人の二人には肉体関係のいやらしさでなく、芳香で熟成された体を確かめ合うことで大人のコミュニケーションを必然的な形で取り入れていた。体を重ねあう事、息を交わしあう事で言葉とは違う愛の深さを感じ合っていた。
洋子は独身だった。なかなか結婚に至らないまま年齢を重ねてしまっていた。やっと知り合った男と5年間は恋愛関係が続いたが、最後は男にフラれてしまっていた。
職場は女性が多い。なかなかよそで知り合う機会もなく昔の恋愛を引きずりながら、洋子は先月まで生きてきた。義男と知り合ってまだ1か月。洋子にとっては久しぶりの恋愛相手だった。
義男は一度結婚を失敗していた。彼の浮気の多さが原因でなく彼女の浮気が原因だった。男というものは自分が浮気をしていても相方が浮気をすると許せない性質のようだ。子供がいなかったこともあり、義男は追い出すように彼女に別れを告げた。
洋子との恋愛は義男にとっても久しぶりだった。だが、いつまで続くかは自信がなかった。義男はいつだってそうなのだ。本当の愛を探したいと言いながら「今度じゃねえ、次回かも」といつも、そばにいる女を通り越して勝手な夢を見る。愛の囁きは上手いが、愛の受け取り方が下手な男だった。